古文の和歌を完全攻略!修辞法と解釈のコツを現役教師が解説

こんにちは。「たく先生」です。古文の授業をしていると、和歌が出てきた瞬間に思考停止してしまう生徒さんによく出会います。「先生、31文字しかないのに意味が深すぎて分かりません……」という嘆きをこれまで何度聞いたことか。たしかに、短い言葉の中に情景と心情を複雑に織り込む和歌は、現代人にとってハードルの高いジャンルかもしれません。
しかし、実は古文や和歌には攻略するための明確なルールが存在します。和歌は感覚だけで読むものではなく、修辞法(レトリック)や文法知識を駆使して論理的に解読する「パズル」のようなものです。
修辞法や枕詞の意味を知り、掛詞や序詞といった技法を分解できれば、驚くほど現代語訳がスムーズになります。この記事では、共通テストなどの入試問題で頻出の文法事項や解釈のポイント、そして効果的な対策について、国語教師の視点からわかりやすく解説していきます。
古文の和歌で必須の修辞法と解釈
和歌は単なる「昔のポエム」ではありません。限られた文字数で情景と心情を重ね合わせ、より深い感動を伝えるために、当時の人々が編み出した高度なテクニックの結晶です。
入試において和歌が出題される理由は、単に文学的な鑑賞力を問うだけでなく、文脈を正確に把握し、多重化された意味を論理的に解きほぐす力があるかを見るためです。ここでは、入試で絶対に避けては通れない基本的な修辞法について、そのメカニズムと解読のルールを解説します。
頻出の枕詞一覧と暗記のコツ

まずは和歌の修辞法における基本中の基本、「枕詞(まくらことば)」から攻略していきましょう。漫画や映画のタイトルで有名になった「ちはやぶる」も、実はこの枕詞の一つです。
枕詞とは、ある特定の言葉を導き出すために置かれる、主に5音(5文字)の修飾語のことです。31文字しかない短い和歌の中で、わざわざ5文字も使って「飾り」を入れるなんて贅沢だと思いませんか? しかし、この「飾り」があるからこそ、歌に独特のリズムが生まれ、格調高い雰囲気が醸し出されるのです。
生徒からよく「先生、枕詞はどう訳せばいいですか?」「全部覚える必要がありますか?」と質問されますが、私の答えは明確です。
枕詞の2大ルール
- 現代語訳には反映させなくてOK
原則として訳しません。()に入れて訳から除外して考えると文脈がスッキリします。 - 「下の語」とセットで覚える
入試では「空欄補充」で狙われます。「この言葉が来たら、上に来る枕詞はこれ!」と即答できる反射神経が必要です。
訳さなくて良いとはいえ、その語源やイメージを知っておくと、歌全体の情景がより鮮明に浮かび上がってきます。ここでは、大学入試や共通テストで頻出の枕詞を厳選し、覚えやすいようにカテゴリー分けして整理しました。
① 自然・色彩イメージ系(超頻出)
視覚的なイメージを喚起する美しい枕詞たちです。これらは必ず覚えてください。
| 枕詞 | 導かれる語(かかる語) | イメージ・語源メモ |
|---|---|---|
| ひさかたの | 光、天、空、月、雲、雨 | 「日(太陽)射す方」の意味など諸説あり。空にあるもの全般にかかります。 |
| ぬばたまの | 黒、夜、闇、髪、夢 | 「ヒオウギ」という植物の黒い実から。「黒いもの」「夜のイメージ」にかかります。 |
| しろたへの | 衣(ころも)、袖、雪、雲 | 「白妙(白い布)」のこと。白いもの全般にかかります。 |
| あをによし | 奈良 | 奈良の都の顔料(青丹)の美しさを讃える言葉。「奈良」専用の枕詞です。 |
② 神・人・心情系
人間関係や神聖なものにかかる枕詞です。物語の中の和歌でもよく登場します。
| 枕詞 | 導かれる語(かかる語) | イメージ・語源メモ |
|---|---|---|
| ちはやぶる | 神、社(やしろ)、氏(うじ) | 勢いが激しい様子。神の荒々しい力を表現します。「神代」にかかることも多いです。 |
| たらちねの | 母、親 | 「垂乳根(たらちね)」=乳が垂れるほど授乳して育ててくれた母、という意味があります。 |
| からころも | 着る、裁つ、袖、裾 | 「唐衣(中国風の立派な着物)」。「着る」だけでなく、着物を「裁つ(たつ)」にもかかります。 |
| うつせみの | 世、人、命、身 | 「空蝉(セミの抜け殻)」のように儚いもの、という意味で現世や命にかかります。 |
③ 山・旅・道具系
最後は、移動や道具に関連する枕詞です。特に「あしびきの」は頻出度ナンバーワンと言っても過言ではありません。
| 枕詞 | 導かれる語(かかる語) | イメージ・語源メモ |
|---|---|---|
| あしびきの | 山、峰(を) | 「足引き」で、山道を登る足の動作に由来するとされます。「山鳥」にかかることもあります。 |
| くさまくら | 旅、結ぶ、露 | 旅先で草を束ねて枕にしたことから。「旅」と言えば「草枕」です。 |
| あづさゆみ | 引く、張る(春)、射る(入る) | 「梓弓(あずさゆみ)」という弓のこと。弓に関連する動作や、音の通う言葉にかかります。 |
暗記のコツ:音読でリズムに乗る!
これらを一つひとつ単語カードで覚えるのは非効率です。「ひさかたのーひかりー」「あしびきのーやまー」と、5音+下の語句をセットにして音読してください。百人一首を覚える感覚でリズムに乗せてしまうのが、最短の攻略ルートですよ。
入試本番で「あ、これ知ってる!」となるだけで、精神的な余裕が全く違ってきます。まずは上記のリストにあるものから優先的に押さえておきましょう。
迷わない掛詞の見つけ方と訳出

次に、多くの受験生を悩ませる「掛詞(かけことば)」について解説します。掛詞とは、一つの言葉に二つの意味(同音異義語)を持たせる技法のこと。「なんだ、ただのダジャレか」と侮ってはいけません。これは31文字という極限まで短い空間に、「目の前の景色(映像)」と「内面の感情(ストーリー)」を同時に圧縮して詰め込むための、超高度な圧縮技術なんです。
和歌の解釈問題で「意味が通じない……」となる原因の9割は、この掛詞を見落としていることにあります。逆に言えば、掛詞さえ見抜ければ、和歌の構造は手に取るように分かるようになります。
① 掛詞を発見するための「2つのシグナル」
試験中に「どこに掛詞があるの?」と迷わないための、明確なシグナルがあります。
掛詞を見抜く鉄則シグナル
- 不自然な「ひらがな」表記
漢字で書けるはずの単語(松、秋、降るなど)が、あえて「ひらがな」で書かれていたら、そこには100%意図があります。「ひらがな=掛詞のサイン」と疑ってください。 - 文脈の「ねじれ」と「急転換」
「雨が降っている景色を描写していたのに、急に自分の老いについて嘆き始めた」というように、自然描写から心情描写へ急にシーンが変わる「つなぎ目」。ここに掛詞という接着剤が存在します。
② これだけは暗記!入試頻出の掛詞リスト
掛詞は無限にあるわけではありません。入試に出るパターンは決まっています。以下のリストにある語句が出てきたら、反射的に「二つの意味」が浮かぶようにしておきましょう。
| 語句 | 意味A(自然・情景) | 意味B(心情・人事) | 重要度 |
|---|---|---|---|
| まつ | 松(植物の松) | 待つ(相手を待つ) | S |
| ふる | 降る(雨・雪が降る) | 古る(時間が経つ・老いる) 振る(袖を振る) | S |
| ながめ | 長雨(降り続く雨) | 眺め(物思いにふける) | S |
| かる | 枯る(草木が枯れる) | 離る(人が離れていく) | A |
| あき | 秋(季節) | 飽き(恋に飽きる・嫌になる) | A |
| ひ | 火(燃える火) 日(太陽・日数) | 思ひ(「ひ」の部分) ※恋心を火に例える | A |
| うき | 浮き(水に浮く) 泥(沼地の泥) | 憂き(つらい・苦しい) | B |
| よ | 夜(night) 節(竹の節) | 世(男女の仲・世の中) | B |
③ 減点されない「訳出」のテクニック
掛詞が見つかったら、次はどう訳すかです。ここが腕の見せ所です。
多くの生徒さんが「どっちの意味で訳せばいいですか?」と迷いますが、正解は「文脈に合わせて両方の意味を織り込む」です。
小野小町の有名な歌を例に見てみましょう。
例歌:花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
ここにある「ながめ」は、「長雨」と「眺め」の掛詞です。
- × NG訳(片方だけ):長雨が降っていた間に。
- × NG訳(片方だけ):ぼんやり物思いにふけっていた間に。
- ◎ OK訳(両方拾う):長雨が降り続き、私がむなしく物思いにふけって眺めていた間に……。
このように、「Aであり、かつBでもある」というニュアンスで、自然描写と心情をなめらかに接続するのがコツです。無理に一つの文にするのが難しければ、「(雨が)降る、そして(私は)古りゆく」のように並列させても構いません。重要なのは、採点者に「私はここに掛詞があることに気づいていますよ!」とアピールすることです。
難関の序詞は訳し方と「3つのパターン」が鍵

和歌の修辞法において、多くの受験生が最も苦手とする「ラスボス」的存在、それが「序詞(じょことば)」です。
枕詞が「5文字の固定された飾り(訳さなくていい)」だとすれば、序詞は「7文字以上の長くて自由な前置き(訳さないといけない)」です。作者がその場で即興で作ることも多く、丸暗記が通用しません。だからこそ、仕組みを理解していないと手も足も出ないのです。
① 序詞は「3つの接続パターン」で識別せよ!
序詞の最大の難点は「どこまでが序詞か」が見えにくいこと。しかし、実は序詞が下の言葉(本題)につながる接続方法は、大きく分けて以下の3つのパターンしかありません。これを知っておくだけで、区切れ目が劇的に見つけやすくなります。
| パターン | 特徴と見抜き方 |
|---|---|
| ア. 比喩的序詞 (意味でつながる) | 「〜のように」という比喩の関係。 例:山鳥の「長い尾」→「長い夜」 イメージの類似性でなめらかに接続します。 |
| イ. 音調的序詞 (音の響きでつながる) | 「音の繰り返し・類似音」の関係。 例:「いづみ川」→「いつ見き」 ダジャレに近い感覚で、似た音を重ねてリズムよく接続します。 |
| ウ. 掛詞的序詞 (同音異義語でつながる) | 「掛詞(ダブルミーニング)」が接着剤。 序詞の最後の言葉が、そのまま本題の最初の言葉を兼ねて接続します。 |
② 実践!「音調的序詞」のサインを見逃すな
特に受験生が気づきにくいのが、イの「音調的序詞」です。百人一首の有名な歌を例に、そのメカニズムを見てみましょう。
みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
(中納言兼輔)
この歌の構造を分解すると、こうなります。
- 序詞部分:「みかの原 わきて流るる いづみ川」
(みかの原を湧き出して流れる泉川…) - 本題部分:「いつ見きとてか 恋しかるらむ」
(いつあなたを見たといって、こんなに恋しいのだろうか ※まだ一度も会っていないのに)
ここで注目すべきは接続部分です。川の名前である「いづみ(川)」の音の響きを受けて、直後に「いつ見(き)」という似た音の言葉を続けています。
ここが識別のサイン!
「いづみ」→「いつみ」のように、直前の言葉と似た音が繰り返されていたら、そこが序詞の切れ目(接続点)です。意味上のつながりはなくても、リズム(音調)だけで強引かつ軽快につなげる。これが平安時代の高等テクニックなのです。
③ 現代語訳のコツは「つなぎ言葉」を補うこと
パターンがわかれば訳し方も決まります。
- 比喩的序詞の場合:
「〜のように」と補って、イメージをつなげる。 - 音調・掛詞的序詞の場合:
意味は通じないので、「〜ではないが」や「その言葉の響きのように」といった言葉を心の中で補い、本題へ入る。
このように、「意味(比喩)」なのか「音(音調・掛詞)」なのかを分類することで、どこで区切ればいいかが明確になり、現代語訳の精度が格段に上がります。
縁語の意味と連想のネットワーク

「縁語(えんご)」とは、一言で言えば「和歌の中で行われる連想ゲーム」です。ある言葉(A)を出したら、それに関連する言葉(B、C、D…)を歌の中に散りばめる。そうすることで、31文字という短い世界に、統一感のあるイメージや言葉の響き合いを持たせるテクニックです。
例えば、現代の感覚で言うと、「試験」という言葉を使ったら、「落ちる」「滑る」は縁起が悪いから避けて、「桜咲く」「突破」といった言葉を使おう、と意識しますよね。縁語はこれの逆で、「衣(着物)」の話をするなら、意識的に「着る」「張る」「結ぶ」といった関連語をどんどん使おう!という発想です。
① 【保存版】入試に出る「5大縁語グループ」
縁語は無限にあるわけではなく、入試で問われるパターンはほぼ決まっています。以下の5つのグループを押さえておけば、和歌の分析がぐっと楽になります。
| ジャンル | 中心となる語 | 連想される縁語(ネットワーク) |
|---|---|---|
| 衣類(着物) ※超頻出 | 衣・袖・裳・紐 | 張る(布を張る ⇔ 春) 裁つ(布を裁断する ⇔ 絶つ) なる(着慣れる ⇔ 慣れ親しむ) つま(着物の端 ⇔ 妻・夫) 裏(着物の裏地 ⇔ 心の中) 結ぶ・解く(紐を結ぶ・解く) |
| 糸・緒 | 糸・玉の緒 | よる(糸を縒り合わせる ⇔ 近寄る) 乱る(糸がもつれる ⇔ 心が乱れる) 絶ゆ(糸が切れる ⇔ 仲・命が絶える) ぬく(糸を通す ⇔ 貫く) |
| 弓矢 | 弓・梓弓 | 張る(弓を張る ⇔ 春) 引く(弓を引く ⇔ 手を引く) 射る(矢を射る ⇔ 入る・居る) 返る(矢が返る ⇔ 人が帰る) |
| 川・水 | 川・海・涙 | 流る(水が流れる ⇔ 噂が流れる) 澄む(水が澄む ⇔ 人が住む) 瀬・淵・底(深さや場所を表す) 浮く・沈む(身の境遇) |
| 火・燃焼 | 火・思ひ | 燃ゆ(恋心が燃える) 焦がる(思い焦がれる) 消ゆ(命や恋が消える) 煙・灰(燃え尽きたあと) |
② 縁語は「掛詞」との複合技で輝く
表を見て気づいた人もいるかもしれませんが、縁語の多くは「掛詞(かけことば)」とセットで使われます。
例えば、「衣」の縁語である「張る」は、季節の「春」と掛詞になりやすいですし、「弓」の縁語である「引く」は、誰かの袖を「引く(誘う)」という意味と重ねられます。つまり、縁語を見つけることは、隠された掛詞を見つける手がかりにもなるのです。
注意点:現代語訳に無理に入れなくてOK
縁語自体は、あくまで「言葉の綾(あや)」や「リズム作り」のために使われていることが多いです。ですから、現代語訳をする際に「着物の縁語だから……」と無理に訳出する必要はありません。
ただし、設問で「この歌に使われている修辞法を全て答えよ」と聞かれた場合には、必ず指摘できるようにしておきましょう。「衣」という言葉があるのに、文脈に関係なく唐突に「なれ(着慣れ)」や「つま(褄)」が出てきたら、それは縁語のサインです。「裁つ」と「(関係を)断つ」が掛詞になっているなど、掛詞とセットで使われることも多いです。設問で「ここに使われている修辞法は?」と聞かれたときに答えられるよう、「意味のグループ」を意識しておきましょう。
本歌取りで深める和歌の世界観と「引き歌」との決定的違い

「本歌取り(ほんかどり)」は、有名な古歌(本歌)の一部を自分の歌に取り込み、元の歌の世界観を背景として二重写しにする高度な技法です。現代の音楽で言うところの「サンプリング」や「アンサーソング」に近い感覚ですね。
特に『新古今和歌集』の時代(中世)に大流行しました。この技法を攻略する鍵は、「元の歌(本歌)を知っていると、意味がどう深まるのか?」を理解することです。
① 【本歌取りの実例】「末の松山」に込められた悲しい約束
百人一首にも選ばれている有名な歌(A)と、その元ネタとなった本歌(B)を比べてみましょう。
【A:本歌取り(新しい歌)】
契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは
(清原元輔/百人一首42)
訳:約束しましたよね。お互いに涙で濡れた袖を絞っては、「あの末の松山を波が決して越えないように、二人の愛も絶対に変わらない(心変わりしない)」と。
▼ この歌の元ネタ(本歌)はこちら ▼
【B:本歌(元の歌)】
君をおきて あだし心を わが持たば 末の松山 波も越えなむ
(古今和歌集 / 東歌)
訳:あなたを差し置いて、もし私が浮気心を持ったならば、(決してありえないことだが)あの末の松山を波も越えてしまうでしょう。
※主旨:波が松山を越えるなんてありえない=「浮気なんて絶対にありえない」という強い誓い。
解説:
本歌(B)では、「波が山を越えるなんてありえない」という物理的な不可能性を、「絶対に心変わりしない」という強い愛の誓いの比喩として使っています。
それを踏まえて(A)の歌を見てください。「契りきな(約束しましたよね)」と問いかけています。つまり、Aの歌の作者は、Bの歌にある「絶対ありえない=強い誓い」という前提を共有した上で、「あんなに固く誓ったのに(あなたは心変わりしてしまったのですね)」という裏切られた悲しみや皮肉を、強烈に表現しているのです。
これが本歌取りの効果です。単に「悲しい」と言うよりも、本歌の「絶対の誓い」を背景に置くことで、約束が破られた絶望感がより深く伝わってくるのです。
② 「引き歌」との決定的違いは使用シーン
入試でよく混同されるのが、「本歌取り」と「引き歌(ひきうた)」の違いです。どちらも「昔の歌を利用する」点では同じですが、使われる場面と目的が全く異なります。
| 技法名 | 本歌取り(ほんかどり) | 引き歌(ひきうた) |
|---|---|---|
| ジャンル | 和歌の技法 (歌を作るテクニック) | 物語・会話の技法 (会話や手紙でのコミュニケーション) |
| 定義 | 有名な古歌のフレーズを組み込んで、新しい和歌を創作すること。 | 会話や文章(日記など)の中で、古歌の一部を引用して気持ちを代弁させること。 |
| 入試での 狙われ方 | 「本歌と比べて、どのような効果(対比・強調)を出しているか」を問われる。 | 「引用された歌の続き(省略部分)は何か」「言外に何を伝えているか」を問われる。 |
③ 【引き歌の実例】省略された言葉を読む
「引き歌」は『源氏物語』や日記文学で頻出です。登場人物があえて歌の一部だけを口ずさみ、残りの部分(本当に言いたいこと)を相手に察してもらう高度なコミュニケーションです。
『和泉式部日記』の有名なシーン(練習問題3の類題)を見てみましょう。
【場面設定】
亡くなった恋人を思って悲しんでいる作者(女)のもとに、使いの童が「橘(たちばな)の花」を持ってきました。
【本文】
(女は)「昔の人の」と言はれて……
【引用されている古歌】
五月まつ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする
(古今和歌集:五月を待って咲く橘の花の香りをかぐと、昔親しかった人の袖の香りがするなあ)
解説:
作者は「昔の人の」としか言っていませんが、当時の教養ある読者は、すぐに古今和歌集の続きである「袖の香ぞする(懐かしいあの人の香りがする)」までを脳内で補完します。
つまり、この引き歌を通じて、作者は「ただ花を見ている」のではなく、「橘の香りをきっかけに、亡き恋人(昔の人)を思い出して懐かしんでいる」という心情を表現しているのです。
まとめ
和歌の問題で「古歌」が出てきたら、それが「創作の素材(本歌取り)」なのか、「会話や文中の引用(引き歌)」なのかを見極めてください。「引き歌」の場合は、書かれていない「下の句(続き)」にこそ、登場人物の本当のメッセージが隠されていることが多いですよ。
入試古文の和歌を攻略する実践対策
基本的な修辞法を理解したら、次は実践編です。実際の入試問題、特に共通テストや国公立・難関私大の記述問題で点数を取るための具体的な戦略をお話しします。
なむ・ばや等の識別テク

和歌の解釈で決定的な差がつくのが、文法、特に「助動詞」や「助詞」の精密な識別です。単語の意味がわかっても、ここを間違えると「誰が」「何を」したいのか(願望の方向性)が真逆になってしまい、選択肢問題で確実に罠にはまります。
特に、「なむ」と「ばや」の識別は、主語が省略されがちな和歌において、動作主(誰がやるのか)を特定する最強の武器になります。あいまいにせず、理論で完全に識別できるようにしましょう。
① 【最重要】「なむ」の識別は3パターンのみ
「なむ」が出てきたら、直前の言葉の活用形(接続)を確認するだけで、機械的に意味を判別できます。感覚で訳してはいけません。
| 接続(直前の形) | 文法的正体 | 意味と訳し方 |
|---|---|---|
| 未然形 +なむ | 終助詞 (願望) | 「〜してほしい」 他者への願望を表す。 (例)花咲か・なむ(花に咲いてほしい) |
| 連用形 +なむ | 助動詞 (完了+推量) | 「きっと〜だろう」「〜てしまうだろう」 完了「ぬ」+推量「む」。 (例)花咲き・なむ(きっと咲くだろう) |
| 体言・連用形等 +なむ | 係助詞 (強意) | 「〜こそ…だ」(訳さなくても通じる) 係り結びの法則で、文末が連体形になる。 (例)花なむ・咲く |
② 「ばや」と「なむ」で主語を特定する
次に重要なのが、自己の願望を表す「ばや」です。これを「なむ」とセットで理解することで、和歌の省略された主語が見えてきます。
- 未然形 + なむ = 他者への願望(人・物に〜してほしい)
→ 主語は「私」ではなく「相手」や「対象物」になる。 - 未然形 + ばや = 自己の願望(私が〜したい)
→ 主語は必ず「私(作者)」になる。
例文で比較!
- 「都へ行かなむ」
訳:(あなたに)都へ行ってほしい。
→ 主語は「あなた(相手)」 - 「都へ行かばや」
訳:(私が)都へ行きたい。
→ 主語は「私」
③ 盲点になりやすい「だに」と「さへ」
最後に、和歌でよく使われる副助詞「だに」と「さへ」の違いも押さえておきましょう。現代語の「さえ」と同じ感覚でいると痛い目を見ます。
| 語句 | 意味 | 和歌での用例イメージ |
|---|---|---|
| だに | ① 類推(〜さえ) ② 最小限の願望(せめて〜だけでも) | 「散りぬとも香をだに残せ梅の花」 (散ってしまっても、せめて香りだけでも残しておくれ) ※「せめて〜だけでも」と訳すパターンが頻出。 |
| さへ | 添加(その上〜までも) | 「雨降りぬ風さへ吹きぬ」 (雨が降った、その上風までも吹いた) ※状況が追加・悪化するニュアンスで使われる。 |
和歌の中で「だに」が出てきたら、まずは「せめて〜だけでも」と訳してみてください。切ない心情(最小限の望み)を歌っていることが多く、文脈がバチッとはまります。(願望・仮定・命令・意志とセットになっていることが多い)主語が省略されがちな和歌において、動作主を特定する上で非常に重要な手がかりになります。
共通テストの複数テクスト対策

近年の大学入学共通テストにおいて、受験生を最も動揺させているのが「複数テクスト(資料)」形式の問題です。従来のセンター試験のように「一つの物語文を読んで答える」だけでなく、物語に関連する「別の歌集」や「注釈書」「批評文」などが提示され、それらを読み比べさせる問題が増加しています。
「資料が増えるなんて、読む時間が足りない!」と思うかもしれませんが、安心してください。実はこの形式、解き方のパターンさえ掴めば、むしろヒントが増えて解きやすくなるボーナスステージなのです。
① そもそも何が問われているのか?
この形式で問われているのは、単なる知識量ではありません。「同じ和歌でも、置かれた文脈や解釈する人によって、意味や評価が変わる」という多様性への理解と、その違いが生じた理由を説明する論理的思考力です。
これは、文部科学省が新しい学習指導要領で掲げている「多角的な視点から解釈を深める」という方針が色濃く反映された出題傾向と言えます。(出典:文部科学省『学習指導要領「生きる力」』)
② 攻略の3ステップ:まずは「間違い探し」から
複雑に見える複数テクスト問題も、やることはシンプルです。
複数テクスト攻略の3ステップ
- 「異同(いどう)」を見つける
資料Aと資料Bを見比べて、「どこが違うか(語句の違い)」を探します。間違い探しゲームの感覚でOKです。 - それぞれの「文脈」を確認する
その語句が使われている状況を確認します。Aでは「恋が実りそうな場面」、Bでは「絶対に会えない場面」など、シチュエーションの差を特定します。 - 「必然性」を考える
なぜその語句でなければならなかったのか?「Aの状況ならこの言葉が合うし、Bの状況ならこっちの言葉の方が感動的だよね」という文脈適合性を結論づけます。
③ 実践ケーススタディ:「今宵」vs「世人」
具体的なイメージを持つために、よくある「物語」と「歌論書(評論)」の比較パターンを見てみましょう。ある和歌の下の句が、資料によって異なっているケースです。
【お題の和歌】
「夢か現実かわからないほど素敵な逢瀬でしたね」という男の歌に対する、女の返歌。
| 資料 | 下の句の表現 | 解釈とニュアンス |
|---|---|---|
| 資料A (伊勢物語) | 夢うつつとは 今宵さだめよ | 意味:「夢か現実かは、今夜(もう一度会って)決めましょう」 心情:再会への強い「希望・期待」がある。まだ恋は続くと信じている。 |
| 資料B (俊頼髄脳) | 夢うつつとは 世人(よのなか)さだめよ | 意味:「夢か現実かは、世間の人々が決めてください(私にはどうにもできない)」 心情:再会は不可能という「諦念・絶望」がある。自分では決められない切なさ。 |
【解説】
この問題で「どちらが正しいか?」と問われることはありません。問われるのは、「なぜ資料Bの筆者は『世人』の方を良いと評価したのか?」といった理由です。
正解の方向性は、「この二人の関係が『二度と会えない運命』だったことを踏まえると、『今宵(また会おう)』と言うよりも、『世人(もう運命に任せる)』と突き放した方が、叶わぬ恋の悲哀(もののあはれ)がより深く表現されるから」となります。
このように、「表現の違い=状況・解釈の違い」と捉え、それぞれの文脈にベストマッチしている理由を説明できれば、共通テストの複数テクスト問題は大きな得点源になります。
万葉・古今・新古今の歌風の違い

文学史の知識も、和歌の雰囲気を掴む大きな助けになります。和歌の歴史は、大きく分けて三つの時代、三つの歌集で変化してきました。以下の「三代集」のキーワードは必ず押さえておきましょう。
| 歌集名 | 時代 | キーワード(歌風) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 万葉集 | 奈良 | ますらおぶり | 素朴で力強い。感情をストレートに表現する。「〜かも」などの詠嘆が多い。 |
| 古今和歌集 | 平安前期 | たおやめぶり | 繊細で優美。掛詞や縁語など、理知的な修辞法が高度に発達した。 |
| 新古今和歌集 | 鎌倉初期 | 幽玄・有心 | 絵画的で象徴的。体言止めを多用し、余情(言葉に尽くせない言外の意味)を重視する。 |
例えば、目の前の歌が「新古今集」に入っている歌なら、書かれていることの背後にある「寂しさ」や「余韻」まで読み取る必要がある、といったアタリをつけることができます。時代背景を知ることで、解釈の方向性が定まりやすくなるのです。
主語を補う和歌の解釈のコツ

古文の和歌を読んでいて、「これ、誰が誰に言ってるの?」と混乱したことはありませんか?
英語なら “I love you” と主語・目的語が明確ですが、和歌の世界では「我(われ)」も「君(きみ)」も省略されるのが当たり前。この「省略された主語」を正しく補えるかどうかが、誤読を防ぐ最大の防波堤になります。
ここでは、文脈の雰囲気ではなく、論理的に主語を特定するための「3つの手がかり」を伝授します。
① 最強のヒント「詞書(ことばがき)」を無視するな
和歌の直前に書かれている短い説明文を「詞書(ことばがき)」と言います。ここには、5W1H(誰が、いつ、どこで、誰に)が凝縮されています。これを読み飛ばすのは、推理小説で犯人の名前が書かれたページを飛ばすのと同じくらい勿体ないことです。
詞書の「定型パターン」を知ろう
- 「男、女のもとに遣はしける」
→ 作者(主語)は男、読者(相手)は女。
→ 訳すときは「(男が)女のもとに送った歌」となる。 - 「返し」
→ 直前の歌に対する返事(アンサーソング)。
→ 直前の歌が「男→女」なら、この歌は「女→男」になる。 - 「題しらず」
→ 特定の宛先や背景がない場合が多い。一般的な情景や心情として訳す。
② 敬語の有無で「動作主」を特定する
詞書がない場合や、詞書だけではわからない場合は、「敬語」が決定的な証拠になります。古文の敬語には、主語を決定づける強力なルールがあるからです。
| 敬語の種類 | 主語(動作主)の法則 | 代表的な語句 |
|---|---|---|
| 尊敬語 | 「相手」が主語 (偉い人、愛しい人) | たまふ(四段)、おはす、のたまふ、〜る・らる(助動詞) |
| 謙譲語 | 「私(作者)」が主語 | たてまつる、きこゆ、まうす、まかる |
| 丁寧語 | 主語の特定には使えない (読者への配慮) | はべり、さぶらふ (※「〜です・ます」と訳す) |
例えば、「待ちたまふらむ(待っていらっしゃるだろう)」なら、主語は「あなた」。
「待ちきこえむ(お待ち申し上げよう)」なら、主語は「私」です。
③ 重要語彙「たのむ」の活用形で男女を見分ける
最後に、入試で頻出のテクニックを紹介します。重要単語の「たのむ(頼む)」は、活用形を見るだけで「男か女か」を判別できるスーパーワードです。
平安時代の恋愛は「通い婚」が基本。男は女のもとへ通い(=あてにさせる)、女は男を待つ(=あてにする)という図式が文法にも反映されています。
| 活用形 | 意味 | 主語の性別 | 文脈の背景 |
|---|---|---|---|
| 四段活用 (たのま・ず) | あてにする (信頼する) | 主に女 | 「男が来てくれるのを頼りにする」 → 待つ側の心理。 |
| 下二段活用 (たのめ・ず) | あてにさせる (期待させる) | 主に男 | 「今夜行くよと期待させる」 → 通う側の心理。 |
もし試験で「たのめ」という形が出てきたら、それは下二段活用の未然形か連用形。「あてにさせる=男」の歌である可能性が極めて高いと推測できるのです。このように、「語彙×文法×古典常識」を組み合わせることで、省略された主語は論理的に復元できます。
古文の和歌を得点源に変える結論
ここまで、古文の和歌を攻略するための様々なテクニック解説してきました。最後まで読んでくれたあなたは、もう「和歌=なんとなく雰囲気で読むポエム」という誤解から抜け出しているはずです。
あえて断言しますが、大学入試における和歌の解釈に、特別な「感性」や「センス」は必要ありません。
必要なのは、修辞法という「ルール」と、文法という「ロジック」を正しく運用する技術だけです。31文字の中に圧縮された情報を、まるで暗号を解読(デコード)するように一つずつ解きほぐしていく。そのプロセスは、現代文の論理読解や数学の証明問題に近いものがあります。
今日から始める「和歌攻略」3つのステップ
記事を読み終えたら、ぜひ次の手順で日々の演習に取り組んでみてください。
得点力を劇的に上げるアクションプラン
- STEP1:マーキングで「見える化」する
問題文に和歌が出てきたら、まずは鉛筆を持ってください。枕詞を(カッコ)でくくって訳から除外する。ひらがなの掛詞に◯をつける。これだけで、歌の骨格が驚くほど見やすくなります。 - STEP2:文法で「主語」を確定させる
「なむ・ばや」の識別や敬語の有無を確認し、「誰が」「誰に」詠んだ歌なのかを余白にメモします。ここをサボらないことが、選択肢の引っかけを回避する最大の防御策です。 - STEP3:論理で「つなぎ目」を説明する
なぜここで序詞が終わるのか? なぜここで掛詞が使われたのか? その理由を自分の言葉で説明できるようにします。「なんとなく」を排除した瞬間、和歌は最大の得点源に変わります。
和歌は、多くの受験生が苦手意識を持って避けて通ろうとする分野です。だからこそ、ここを得意にすれば、周りと圧倒的な差をつけることができます。
最初はパズルが解けなくてイライラするかもしれません。でも、ルールを覚えれば必ず解けるようになります。この記事をガイドブック代わりにして、ぜひ志望校合格という「春」をその手で手繰り寄せてくださいね。応援しています!







