【古文の時刻】十二支と鐘の数の数え方を表で解説!覚え方も紹介

こんにちは。「たく先生」です。
古文を勉強していると、「丑三つ時」や「暁」、「暮れ六つ」といった時刻を表す言葉が頻繁に出てきて、頭を抱えてしまうことはありませんか?
「今の時間だと何時なの?」「なんで鐘の数は減っていくの?」
そんな素朴な疑問を持つのは当然のことです。現代の私たちは「1日24時間、1時間は60分」という均質な時間感覚の中で生きていますが、かつての日本人は、太陽の動きや季節の移ろいと密接に結びついた、もっと「伸縮する時間」の中で生きていたからです。
実は、この「古文の時刻」の仕組みを理解することこそが、古典読解のレベルを一気に引き上げる裏技になります。なぜなら、時刻の描写には、登場人物の「焦り」や「切なさ」、あるいは「恐怖」といった心理状態がセットで込められていることが多いからです。
この記事では、平安時代の貴族から江戸時代の庶民までが使っていた「十二辰刻法」や「不定時法」のルールを、図解をイメージしながら初心者にもわかりやすく、徹底的に噛み砕いて解説します。
基礎から学ぶ古文の時刻の仕組み
まずは、古典の世界で標準的に使われていた時刻の基本ルールをマスターしましょう。現代のようなデジタルな数字ではなく、「十二支(干支)」と「鐘の音」で世界を把握していた当時の感覚をインストールすることが、古文攻略の第一歩です。
十二支と現代時刻の対応表

古文では、1日を12の大きな区画(刻)に分割し、それぞれに十二支(子・丑・寅…)を割り当てる「十二辰刻法(じゅうにしんこくほう)」が使われていました。
現代の24時間制と比較すると、1つの「刻(こく)」は約2時間という幅を持った時間帯になります。しかし、ここで注意が必要なのは、「子の刻=0時」という単純な点ではなく、「23時から1時までの2時間全体」を指すという点です。
さらに、一つの刻は前半と後半に分けられることもありました。
- 初刻(しょこく):その刻の前半1時間(例:子の初刻=23:00〜0:00)
- 正刻(しょうこく):その刻の後半1時間、または中心点(例:子の正刻=0:00〜1:00、または0:00ジャスト)
これらを踏まえた詳細な対応表が以下になります。
| 十二支 | 読み | 現代時刻(目安) | 鐘の数 | 備考・イメージ |
|---|---|---|---|---|
| 子 | ね | 23:00 – 1:00 | 九つ | 深夜。中心が「正子(しょうし)」。 |
| 丑 | うし | 1:00 – 3:00 | 八つ | 草木も眠る深夜。 |
| 寅 | とら | 3:00 – 5:00 | 七つ | まだ暗い「暁」。 |
| 卯 | う | 5:00 – 7:00 | 六つ | 日の出。「明け六つ」。 |
| 辰 | たつ | 7:00 – 9:00 | 五つ | 活動開始の時間。 |
| 巳 | み | 9:00 – 11:00 | 四つ | 昼前。 |
| 午 | うま | 11:00 – 13:00 | 九つ | 中心が「正午(しょうご)」。 |
| 未 | ひつじ | 13:00 – 15:00 | 八つ | 昼下がり。 |
| 申 | さる | 15:00 – 17:00 | 七つ | 夕方。 |
| 酉 | とり | 17:00 – 19:00 | 六つ | 日没。「暮れ六つ」。 |
| 戌 | いぬ | 19:00 – 21:00 | 五つ | 夜の始まり。 |
| 亥 | い | 21:00 – 23:00 | 四つ | 就寝時。 |
現代語の「正午(しょうご)」は「午(うま)の刻の正刻(真ん中)」だから正午ですし、「午前・午後」もこの午の刻を基準にしている言葉です。私たちの言葉の中に、古文の時刻制度が生きているなんて面白いですよね。
鐘の数の数え方と九つの意味

時計を持たない庶民にとって、時間の合図は寺院や城郭から響く「時の鐘」でした。この鐘の数は、昼と夜のそれぞれで「九つ」から始まって、数が一つずつ減っていくという独特のカウントダウン方式を採用しています。
「なぜ1から数えないで、9から始まるの?」と疑問に思いますよね。これには古代中国の陰陽道(おんみょうどう)の思想が深く関わっています。
陰陽道において、奇数は「陽」の数とされ、その中でも「9」は極めて縁起が良い最大の数(極陽)とされていました。そのため、一日の区切りである「真夜中(子)」と「真昼(午)」に、最高の数である「九つ」を打ち鳴らしたのです。
その後の鐘の数は、以下のような「九九の掛け算」の法則で決められているという説が有力です。
【鐘の数の決定ロジック】
十二支の順番に9を掛け、その答えの「下一桁」をとります(ただし10以上の場合は十の位を切り捨てて調整されたとも言われます)。
- 子の刻(1番目):9 × 1 = 9 → 九つ
- 丑の刻(2番目):9 × 2 = 18 → 十の位を無視して 8 → 八つ
- 寅の刻(3番目):9 × 3 = 27 → 7 → 七つ
- 卯の刻(4番目):9 × 4 = 36 → 6 → 六つ
- 辰の刻(5番目):9 × 5 = 45 → 5 → 五つ
- 巳の刻(6番目):9 × 6 = 54 → 4 → 四つ
ここで「四つ」までいくと、次の「午の刻」で再び「九つ」に戻り、サイクルがリセットされます。
丑三つ時とは何時か詳しく解説

怪談やホラー映画などで決まって登場する「丑三つ時(うしみつどき)」。なんとなく「真夜中」というイメージはあると思いますが、正確には何時何分頃を指すのでしょうか。
時間をさらに細かく指定する場合、一つの刻(約2時間)を4等分し、「一つ、二つ、三つ、四つ」と呼ぶ数え方がありました。1単位は約30分になります。
- 丑の刻一つ:1:00 〜 1:30
- 丑の刻二つ:1:30 〜 2:00
- 丑の刻三つ:2:00 〜 2:30
- 丑の刻四つ:2:30 〜 3:00
つまり、午前2時から2時30分頃の深い闇に包まれた時間帯です。
なぜこの時間が恐れられたのかというと、時刻だけでなく「方角」も関係しています。十二支を方角に当てはめると、「丑」と「寅」の間である「北東」は、陰陽道で「鬼門(きもん)」と呼ばれ、鬼や魔物が出入りする不吉な方角とされていました。丑の刻から寅の刻へと移り変わるこの時間帯は、まさに「魔の時間」への入り口だったのです。
おやつの語源は昼の八つ

私たちが毎日の楽しみにしている「おやつ」。この言葉も、実は江戸時代の時刻制度から生まれた言葉です。
当時、朝夕の2食が基本だった生活の中で、肉体労働などをする人々は午後の小腹が空く時間に間食をとる習慣がありました。その時間がちょうど「昼の八つ(未の刻)」、つまり午後2時〜3時頃(中心は午後2時)だったことから、「お八つ」と呼ばれるようになったのです。

へぇ~!「おやつ」って元々は時間の名前だったんですね。そう考えると、昔の言葉って今の生活にも結構残ってるんだなあ。

そうなんだ。言葉の語源をたどると、当時の人々の生活リズムが見えてくるよね。「八つ=午後2時」と覚えておけば、古文のテストでも役立つ知識になるよ。
定時法と不定時法の違いとは

古文の時刻を学ぶ上で、避けて通れないのが「定時法(ていじほう)」と「不定時法(ふていじほう)」という2つのルールの存在です。この違いを知らないと、文学作品の季節感や時間の流れを誤読してしまう恐れがあります。
2つの時刻制度の違い定時法(平安貴族・宮中) 1日を等分するシステム。季節に関わらず時間の長さは一定です。「漏刻(ろうこく)」という水時計を使って管理され、主に宮中の儀式や占星術で使われました。『源氏物語』などの平安文学を読む際はこちらが基準になります。 不定時法(江戸庶民・日常生活) 「日の出(明け六つ)」と「日没(暮れ六つ)」を基準にするシステム。昼と夜をそれぞれ6等分するため、季節によって「一刻」の長さが伸び縮みします。自然のリズムに合わせた、農業中心の生活に適した方法です。(出典:国立天文台 暦計算室『時刻の表現』)
特に不定時法では、夏と冬で時間の長さが劇的に変わります。
| 季節 | 昼夜の長さ | 昼の一刻の長さ | 夜の一刻の長さ |
|---|---|---|---|
| 夏至(夏) | 昼が長い | 約 2時間40分 | 短い |
| 冬至(冬) | 夜が長い | 短い | 約 2時間40分 |
例えば、同じ「申の刻(夕方)」の待ち合わせだとしても、夏ならまだ太陽が高く汗ばむような時間帯ですが、冬ならもう日が傾いて薄暗く、身を切るような寒さかもしれません。古文を読むときは、「今はどの季節か?」を常に意識して、その場面の明るさや気温を想像する「不定時法的な感覚」を持つことが、情景描写を深く味わうコツです。
古文の時刻の覚え方と重要単語
ここまで仕組みを解説してきましたが、「理屈はわかったけど、全部丸暗記するのは大変…」と感じている人も多いでしょう。そこで、試験本番でも使える効率的な覚え方と、読解で頻出する「時を表す重要古語」を整理して紹介します。
時計の文字盤を使った覚え方
十二支の配置を文字だけで覚えようとするのは非効率です。試験中に思い出せるよう、アナログ時計の文字盤(円グラフ)のイメージを頭に焼き付けましょう。
【時計盤イメージ法:4つの基準点を押さえる】
- 頂点(12時方向)=「子(ね)」:深夜0時を中心とする時間帯。
- 底(6時方向)=「午(うま)」:正午12時を中心とする時間帯。
- 右(3時方向)=「卯(う)」:東の方角。日の出(明け六つ)。午前6時頃。
- 左(9時方向)=「酉(とり)」:西の方角。日没(暮れ六つ)。午後6時頃。
この上下左右の4点(十字)さえ覚えておけば、あとはその間を「ね、うし、とら…」と埋めていくだけで、おおよその時刻をすぐに導き出すことができます。「卯(う)=右(う)」と語呂合わせで覚えるのもおすすめですよ。
暁と曙など朝を表す語句の違い

古文の世界では、夜から朝にかけての光の移ろいを、非常に繊細なグラデーションで表現し分けます。特に以下の3つの言葉は、現代語の感覚とズレがあるため、入試でも頻出のポイントです。
| 語句 | 意味・状態 | 文学的文脈・イメージ |
|---|---|---|
| 暁(あかつき) | 夜明け前の「まだ暗い」時間帯。 | 男が女のもとを去る「後朝(きぬぎぬ)の別れ」の時間。暗闇に紛れて帰る切なさが伴う。 (鐘でいうと寅の刻あたり) |
| 東雲(しののめ) | 東の空がわずかに白み始め、光が差し込む頃。 | 「篠(しの)の目」から光が入る意。闇から光への転換点であり、空が紫色や灰色を帯びる。 |
| 曙(あけぼの) | 日の出直前。空がほのぼのと明るくなり、景色や色が見える頃。 | 『枕草子』で「春はあけぼの」と称賛された、最も美しいとされる瞬間。 |
さらに、日が完全に昇って明るくなった早朝のことは「つとめて」と呼びます。これは「あけぼの」よりも後の時間であり、冬の寒さや霜の白さが強調される場面でよく使われます。
注意点
現代語では「成功の暁には」のように、明るい未来を指して「暁」を使いますが、古文の「暁」はあくまで「未明の暗闇」です。ここを混同しないようにしましょう。
黄昏と彼は誰時の意味と使い分け

朝と同様に、夕方と明け方の「薄暗くて人の顔が見分けにくい境界の時間」にも、情緒あふれる名前がついています。
- 黄昏(たそがれ):夕暮れ時。語源は「誰(た)そ彼(かれ)(そこにいるのは誰ですか?)」と問わなければならない暗さから来ています。
- 彼は誰時(かわたれどき):語源は同じく「彼は誰ぞ」ですが、一般的に明け方を指す言葉として使われます。
『源氏物語』の「夕顔」の巻では、この「黄昏」の時間帯に光源氏と夕顔の君が出会い、お互いの素性がはっきりしないまま、夢のような恋に落ちていく様子が描かれています。「たそかれ」という言葉には、物理的な暗さだけでなく、「相手が誰かわからない」というミステリアスな雰囲気や、「現(うつつ)か幻かわからない」という儚さが込められているのです。
季節による一刻の長さの変化
先ほど「不定時法」の項目で触れたように、季節による「一刻」の長さの違いは、古典文学のリアリティを感じるために不可欠な要素です。
夏は昼間が長く、活動できる時間がたっぷりとあります。一方、冬は「暮れ六つ(日没)」が早く訪れるため、夜の時間が圧倒的に長くなります。当時の人々にとって、冬の夜は現代以上に長く、暗く、そして孤独を感じさせるものでした。
恋人を待つ女性の歌に「夜の長さ」を嘆くものが多いのは、単なる比喩ではなく、実際に冬の夜の一刻が現代の時間感覚よりも長く(約2時間40分相当に)感じられたという物理的な背景もあるのです。
枕草子に見る季節と時刻の美

清少納言の随筆『枕草子』の第一段は、ここまで解説してきた「季節」と「時刻」の関係性を、極めて洗練された感性でまとめ上げた名文中の名文です。
- 春はあけぼの:寒さが緩む春は、日の出前の明るくなりかけ(曙)の色彩が美しい。
- 夏は夜:暑い昼間ではなく、月や蛍、雨音などが楽しめる夜が良い。
- 秋は夕暮れ:日が落ちる瞬間(暮れ六つ直前)の、烏や雁が帰っていく寂寥感が良い。
- 冬はつとめて:キリッと冷え込んだ早朝こそ、火桶を持って回るなどの生活の活気があって良い。
彼女は、「春=朝」「夏=夜」というように、その季節の魅力を最大限に引き出す「ゴールデンタイム」を定義しました。この段を読む際は、単に「春は朝が良い」と訳すのではなく、「なぜ清少納言はその時刻を選んだのか?」を、光の加減や気温の変化と結びつけて味わってみてください。
古文の時刻をマスターして得点アップ

古文における時刻は、現代とは違うリズムで流れています。しかし、十二支の配置や「暁・曙」の順番など、基本的なルールさえ覚えてしまえば、読解における強力な武器になります。
「今は丑三つ時だから、不吉なことが起こる前触れかな?」「暁だから、人目を忍んで帰るシーンだな」と推測できるようになれば、あなたはもう古文初心者ではありません。ぜひ、今回紹介した時計盤のイメージを活用して、古典の世界をより深く、より鮮明に楽しんでくださいね。






