古文の係り結びを完全攻略!法則と例外をわかりやすく解説

古文の学習を進める中で、多くの人が一度は壁と感じるのが「古文の係り結び」ではないでしょうか。文法用語としては知っていても、なぜ文末の形が変わるのか、どう訳せばよいのか、そして数々の例外に混乱してしまうことも少なくありません。しかし、係り結びは、書き手が文章に込めた強調や疑問といった感情を読み解くための重要な鍵です。日本の豊かな古典文学を深く味わう上で、文化庁が推進する国語施策においても、古典の読解力は重要な要素とされています。
この記事では、古文の係り結びの法則をわかりやすく、そして体系的に解説します。具体的な例文とその訳し方はもちろん、助動詞の「けり」との組み合わせや、「なむ」や「こそ」が関わる係り結びの特有のパターンも網羅。文末が已然形や連体形に変化する基本ルールから、読解で差がつく応用・例外パターンまで、あなたの中の疑問を一つひとつ解消していきます。
古文の係り結びを理解する基本ルール
- 係り結びの法則をわかりやすく解説
- 係助詞と結びの活用形を一覧で確認
- 連体形・已然形への変化とは?助動詞「けり」の実践例
- 基本的な係り結びの例文を紹介
- 強調・疑問・反語の訳し方をマスター
係り結びの法則をわかりやすく解説

古文の係り結びとは、文中に特定の「係助詞」が登場したときに、文末の活用語が本来の終止形ではなく、決められた特定の活用形(連体形または已然形)に変化するという、古文特有の文法ルールです。
現代語では、文の終わりは「〜だ。」「〜です。」といった終止形で結ぶのが基本です。しかし、古文の世界では、書き手が特定の言葉にスポットライトを当てたいとき、あるいは読者に問いかけたいときに、この係り結びという仕掛けを用いました。言ってしまえば、現代の私たちが文章で使う「!」や「?」のような感情のニュアンスを、文全体の構造変化で表現していたと考えると、その役割がイメージしやすくなるでしょう。
この法則は、一見すると複雑で面倒に感じるかもしれません。しかし、このルールが生まれた背景には、話し言葉のリズムや抑揚を文章で表現しようとした、当時の人々の工夫がありました。この法則を理解することは、単にテストで点を取るためだけでなく、古文の世界をより生き生きと、立体的に読み解くための第一歩となるのです。まずは、「どの係助詞が」「どの形に文末を変えるのか」という基本の組み合わせを確実に覚えることから始めましょう。
最初は暗記が多くて大変に感じるかもしれませんが、ルール自体は非常に論理的です。一度この「型」を身につけてしまえば、これまでぼんやりと読んでいた文章の構造が、驚くほどクリアに見えてきますよ。
係助詞と結びの活用形を一覧で確認

係り結びを引き起こす主役となる係助詞は、「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」の5種類です。これらの語が文中に出てきたら、「お、係り結びだ。文末の形に注意しよう」とアンテナを張る癖をつけることが重要です。それぞれの係助詞が持つ固有の意味と、それに対応する文末の活用形(結び)を、以下の表でしっかりと頭に入れましょう。
係り結びの基本対応表
係助詞 | 文中での意味 | 結びの活用形 | ニュアンス |
---|---|---|---|
ぞ | 強調 | 連体形 | 強い断定・主張 |
なむ (なん) | 強調 | 連体形 | やや柔らかな強調 |
や | 疑問・反語 | 連体形 | 問いかけ、詠嘆 |
か | 疑問・反語 | 連体形 | 問いかけ、反語 |
こそ | 強調 | 已然形 | 最も強い強調・限定 |
この表の最重要ポイントは、「こそ」だけが特別扱いで文末を「已然形」で結び、他の4つの係助詞はすべて「連体形」で結ぶという点です。この区別はテストで頻繁に問われますので、確実に暗記してください。また、意味の分類として「ぞ・なむ・こそ」が強調グループ、「や・か」が疑問・反語グループであることも、文章を正確に訳す上で非常に重要な知識となります。
連体形・已然形への変化とは?助動詞「けり」の実践例

係り結びの核心は、文末の活用語が本来の「終止形」ではなく、「連体形」または「已然形」という特別な形に変化する点にあります。では、この二つの活用形は、それぞれどのような性質を持っているのでしょうか。それぞれの本来の役割を知ることで、なぜ係り結びで使われるのか、その理由がより深く理解できます。
- 連体形:その名の通り、「体言(名詞)」に連なる(続く)形です。「美しき花」「走る人」のように、主に名詞を修飾する際に使われます。
- 已然形:「已(すで)に然(しか)り」の形で、確定した事柄を表します。主に接続助詞「ば」や「ど・ども」を伴い、「〜ので」「〜けれども」といった順接・逆接の接続部分で使われる形です。
このルールを、実際の古文で最もよく目にする助動詞の一つ、過去や詠嘆を表す「けり」を例に、具体的に見ていきましょう。
最頻出!助動詞「けり」の活用変化
助動詞「けり」は、係助詞の有無によって以下のように形を変えます。この3つの変化形は必ず覚えてください。
助動詞「けり」の係り結びによる変化
- 終止形(通常の文末):けり
- 連体形(「ぞ」「なむ」「や」「か」の結び):ける
- 已然形(「こそ」の結び):けれ
実際の例文で変化を確認
上記の活用変化が、実際の文章でどのように現れるのかを例文で確認します。係助詞があるかないかで、文末のリズムがどう変わるかに注目してください。
「けり」は物語文学などで本当によく出てきます。この変化パターンをマスターするだけで、読める文章が一気に増えますよ!
①係助詞がない場合 → 終止形「けり」
・男も女も恥ぢかはしてありけり。(伊勢物語)
→文中には係助詞がありません。そのため、文末は通常通り、助動詞「けり」の終止形で結ばれています。訳は「〜た。」となります。
②係助詞「なむ」がある場合 → 連体形「ける」
・親のあはすれども、聞かでなむありける。(伊勢物語)
→文中には強調の係助詞「なむ」があります。これに呼応して、文末は「けり」の連体形である「ける」に変化します。訳は「〜たことだ。」といった詠嘆のニュアンスになります。
③係助詞「こそ」がある場合 → 已然形「けれ」
・昔こそ、人の住みかなどもありけれ、今は…(源氏物語・須磨)
→文中には最も強い強調を表す係助詞「こそ」があります。これに対応し、文末は「けり」の已然形である「けれ」に変化します。訳は「昔は〜たことだが、今は…」のように、逆接の意味合いを含むことも多いです。
全ての基本は「活用」の暗記から
このように、助動詞の活用を正確に覚えてさえいれば、係助詞に対応する結びの形を機械的に判断できます。このルールは「けり」に限りません。意志・推量の「む」、当然・命令の「べし」、断定の「なり」、完了の「たり」など、他の主要な助動詞でも全く同じルールが適用されます。係り結びをスムーズに攻略する最大の鍵は、結局のところ、地道な活用暗記にあると言えるでしょう。
基本的な係り結びの例文を紹介

ここでは、実際の古典作品に出てくる例文を通して、係り結びがどのように機能しているかを確認していきましょう。係助詞の存在によって、文末の形がリズミカルに変化する様子に注目してください。これらの作品は、国文学研究資料館のデータベースなどで原文に触れることもでき、より深い学習につながります。
係助詞がない通常の文
・雨降る。(雨が降る。)
→ごく普通の文。文末は動詞「降る」の終止形です。
「ぞ」(強調)の例文
・昔男ありけり。その男、身はいやしながら、いかでこの人を射落とさむと思ひける心ぞ深かりける。(伊勢物語)
(昔ある男がいた。その男は身分は低かったが、何とかしてこの人(女)を射止めたいと思ったその心が実に深かった。)
→係助詞「ぞ」に呼応して、文末の助動詞「けり」が連体形の「ける」になっています。
「こそ」(強調)の例文
・をりふしの移りかはるこそ、ものごとにあはれなれ。(徒然草)
(季節が移り変わることこそ、何事につけてもしみじみと趣深いものである。)
→係助詞「こそ」があるため、文末の形容動詞「あはれなり」が已然形の「あはれなれ」に変化しています。
「か」(疑問)の例文
・いづれの山か天に近き。(竹取物語)
(どの山が天に近いのだろうか。)
→係助詞「か」があるため、文末の形容詞「近し」が終止形ではなく連体形の「近き」に変化しています。
強調・疑問・反語の訳し方をマスター

係り結びは、文末の形だけでなく、文全体の意味解釈にも深く関わります。係助詞が持つ「強調」「疑問」「反語」という3つの意味を、どのように現代語訳に反映させるか、そのコツを掴みましょう。
強調の訳し方(ぞ・なむ・こそ)
「ぞ」「なむ」「こそ」が持つ「強調」の意味は、多くの場合、現代語訳の際に無理に言葉として補う必要はありません。「こそ」を「〜こそ」と訳出すると自然な場合もありますが、基本的には、作者がその部分に特に心を込めている、というニュアンスを読み取ることが最も重要です。訳文が不自然になるくらいなら、訳出しない方が良いでしょう。
強調のグラデーション
強調の度合いには微妙な差があるとされ、一般的には「なむ」(柔らかな強調)<「ぞ」(強い断定)<「こそ」(最も強い限定的な強調)の順で強くなると言われています。このニュアンスの違いを感じ取れるようになると、読解のレベルが一段上がります。
疑問・反語の訳し方(や・か)
「や」「か」は、文脈によって「疑問」と「反語」の二つの意味に分かれるため、読解では特に注意が必要です。その見分け方が腕の見せ所となります。
- 疑問:話し手が純粋に知らないこと、分からないことを問いかける用法です。訳はシンプルに「〜だろうか。」「〜のか。」となります。
- 反語:答えが分かりきっていることを、あえて問いかけの形で表現することで、強い主張や感情を示す用法です。訳は「〜だろうか、いや、〜ない。」という定型句で覚えるのが鉄則です。
例文:生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。(古今和歌集・仮名序)
(生きているものすべて、どれが歌を詠まないだろうか、いや、詠まないものはない。)
この例文は、「歌を詠まない生き物などいるでしょうか?」と問いかけているのではなく、「すべての生き物は歌を詠むものだ」という強い肯定を表現しています。このように、文脈全体から筆者の最終的な主張を読み取り、疑問なのか、それとも反語なのかを慎重に判断する力が求められます。
古文の係り結びで覚えるべき応用と例外
- 強調を表す「なむ」の係り結び
- 特別な活用をする「こそ」の係り結び
- 注意したい結びの省略パターン
- 結びの流れ(消滅)も押さえよう
- 困惑を表す「もぞ・もこそ」とは
- 古文の係り結びは例外まで覚えよう
強調を表す「なむ」の係り結び

「なむ」は、係助詞の中でも特に識別が重要な言葉です。なぜなら、古文中には同じ「なむ」という響きを持ちながら、全く異なる文法的な働きをする言葉が複数存在するからです。ここで学習しているのは、文中で特定の語句を柔らかく強調し、文末を連体形に変化させる係助詞の「なむ」です。
例文:もと光る竹なむ一筋ありける。(竹取物語)
(根元が光る竹が一本あったのだった。)
この例文では、「なむ」が「一筋あり」という部分に読者の注意を向けさせ、文末の助動詞「けり」を連体形「ける」に変化させています。訳出する際は、前述の通り、無理に「なむ」の意味を訳す必要はありませんが、「〜なのだ」という詠嘆や確認のニュアンスが含まれていることを理解しておくと良いでしょう。
重要!「なむ」の識別法一覧
係助詞の「なむ」を見分けるには、接続(直前の語の活用形)が最大のヒントになります。以下の表で整理して覚えましょう。
接続 | 「なむ」の種類 | 意味 | 例文 |
---|---|---|---|
未然形 | 終助詞 | 他者への願望(~てほしい) | 花咲かなむ。(花が咲いてほしい) |
連用形 | 完了「ぬ」+推量「む」 | きっと~だろう | 花咲きなむ。(きっと花が咲くだろう) |
体言・助詞など | 係助詞 | 強調 | 花なむ咲く。(花が咲くことだ) |
文脈と接続の形から、どの「なむ」なのかを正確に見抜く力は、高度な読解において必須のスキルです。
特別な活用をする「こそ」の係り結び

係助詞「こそ」は、数ある係助詞の中でも特別な存在です。その理由は、文末を唯一已然形で結ぶという特異なルールを持つからです。このユニークな性質のため、「こそ」は入試や試験で最も頻繁に狙われるポイントの一つとなっています。
例文:男はこの女をこそ得めと思ふ。(伊勢物語)
(男はこの女こそ妻にしたいと思う。)
この文では、係助詞「こそ」が「この女を」という部分を強く限定・強調し、それに呼応して、意志の助動詞「む」が已然形「め」に活用しています。「他の誰でもない、この女を」という、男の強い決意が「こそ」の一語に凝縮されているのです。
最重要:「こそ~已然形、」の逆接用法
「こそ」を学ぶ上で絶対に欠かせないのが、この逆接用法です。「こそ~已然形」で文が完結せず、読点(、)や接続助詞を伴って文が続く場合、逆接の意味(~だけれども、~のに)を生み出します。
例文:中垣こそあれ、一つの家のやうなれば…(土佐日記)
(中垣はあるけれども、一軒の家のようなので…)
この文では、「こそ」の結びである動詞「あり」の已然形「あれ」で文が終わっていません。そのため、「ある」に逆接の「けれども」を補って訳します。この用法は、一見すると対立しているように見える二つの事柄を繋ぐ役割を果たし、長文読解では論理展開を正確に追うための非常に重要な手がかりとなります。
有名なことわざ「好きこそ物の上手なれ」も、この係り結びの一例ですね。「好きだからこそ、物事は上達するのだ」という意味で、「なり」の已然形「なれ」で結ばれています。
注意したい結びの省略パターン

係り結びの法則には、いくつかの例外が存在します。その一つが「結びの省略」です。これは、文脈から結びとなる語が容易に推測できる場合に、その語が省略されてしまう現象を指します。文末に「ぞ・なむ・や・か・こそ」があるのに、対応する結びの語が見当たらない場合は、このパターンを疑いましょう。
例文:いかなることのあるにか。(徒然草)
(どのようなことがあるというのだろうか。)
この文は係助詞「か」で終わっており、結びの連体形が見当たりません。これは、読者が当然補ってくれるだろうと書き手が判断し、「あらむ(あろうか)」や「侍らむ(ございましょうか)」といった言葉を省略しているのです。現代語でも「いい天気だね。(そうだね)」のように、会話では言葉を省略することがありますが、それに近い感覚と言えます。読解の際は、文脈に最も合う言葉を自分で補って解釈する必要があります。
結びの省略の典型パターン
- 「~にや」「~にか」 → 末尾に「あらむ」などを補う。
- 「~とぞ」「~となむ」 → 末尾に「言ふ」「聞く」などを補う。
- 「~にこそ」 → 末尾に「あらめ」「侍らめ」などを補う。
これらのパターンを覚えておくと、省略に気づきやすくなります。
結びの流れ(消滅)も押さえよう

「結びの省略」と並ぶもう一つの重要な例外が、「結びの流れ(または結びの消滅)」です。これは、係り結びが成立するはずの文が、文末で完結せずに接続助詞(ば、ど、に、を など)を伴って後ろの文に続いていくことで、係り結びの効果自体が失われてしまう現象を指します。
例文:宮よりぞ出でたまひければ、御供には…(源氏物語)
(宮中からお出かけになっていたので、お供には…)
この文には係助詞「ぞ」があるため、原則に従えば、文末は連体形になるはずです。しかし、直後に順接の接続助詞「ば」が来ています。接続助詞「ば」は已然形に接続するという強力なルールを持っているため、結びの語である「けり」は「ば」のルールに従って已然形「けれ」に変化しています。
このように、後に続く接続助詞の力が係助詞の力よりも優先され、係り結びの法則がキャンセルされてしまうのが「結びの流れ」です。これは文法的なルールが衝突した際の優先順位の問題と理解すると良いでしょう。
困惑を表す「もぞ・もこそ」とは

係り結びの応用として、他の語とセットになって特別な意味を持つ連語表現も覚えておく必要があります。その代表格が「もぞ」と「もこそ」です。
これらは、係助詞「も」に係助詞「ぞ」や「こそ」が組み合わさった形で、「~したら大変だ」「~すると困るなあ」という、話し手の心配や危惧、懸念の気持ちを強く表します。この構文は、その意味合いから「困惑構文」や「危惧(心配)用法」と呼ばれることもあります。
「もぞ」「もこそ」の結びのルール
- もぞ + 連体形 (「ぞ」のルールを引き継ぐ)
- もこそ + 已然形 (「こそ」のルールを引き継ぐ)
結びの活用形は、元になっている「ぞ」と「こそ」のルールをそのまま引き継ぐので、覚えやすいですね。
例文:雨もぞ降る。(徒然草)
(雨が降ったら大変だ。)
例文:烏などもこそ見つくれ。(枕草子)
(烏などが(雛を)見つけたら大変なことになる。)
これらの表現は、単語の意味をそのまま訳しても意味が通りません。一種のイディオムとして、「もぞ・もこそ」を見たら「危惧」の意味だと即座に判断できるようにしておくことが、スムーズな読解の鍵となります。
古文の係り結びは例外まで覚えよう
この記事では、古文の読解に不可欠な「係り結び」について、基本法則から応用・例外パターンまで、順を追って詳しく解説してきました。係り結びは、単なる文法事項ではなく、書き手の意図や感情を伝えるための表現技法です。このルールをマスターすることで、古文の世界がより深く、鮮やかに見えてくるはずです。最後に、本記事で学んだ重要なポイントを振り返りましょう。
- 係り結びは文中の係助詞に文末が呼応する法則
- 係助詞は「ぞ」「なむ」「や」「か」「こそ」の5つ
- 「ぞ」「なむ」「や」「か」の結びは連体形
- 「こそ」の結びだけが特別に已然形
- 「ぞ」「なむ」「こそ」は強調の意味を持つ
- 強調の訳は無理に訳出する必要はないことが多い
- 「や」「か」は疑問または反語の意味
- 疑問は「~か」、反語は「~か、いや~ない」と訳す
- 文脈による疑問と反語の判断が重要
- 助動詞の活用を覚えることが係り結び理解の前提
- 例外として結びの語が省略されることがある
- 省略された語は文脈から補って解釈する
- 結びの流れは接続助詞などが優先され法則が消滅する現象
- 「もぞ」「もこそ」は「~したら大変だ」という危惧を表す
- 基本法則をマスターした上で例外パターンを習得することが大切





