古典の道
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【練習問題付】古典の助動詞「す・さす・しむ」の意味と識別方法を解説

たく先生
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この記事では、古典文法で頻出の助動詞「す・さす・しむ」について、意味の説明や見分け方、活用、接続などをわかりやすく解説します。これらの助動詞は使役や尊敬といった意味を持ちますが、文脈によって区別が難しく、問題を解く際に混乱しやすいものです。また、「す・さす・しむ」と紛らわしいものとの識別方法や漢文との関係性についても詳しく触れていきます。この記事を読み進めれば、「古典 助動詞 す さす しむ」の識別や使い方に自信がつき、演習問題でも正確に解答できるようになるでしょう。

記事のポイント
  • 「古典 助動詞 す さす しむ」の意味と使い方
  • 活用や接続のルールと適用範囲
  • 使役と尊敬の見分け方と識別のコツ
  • 漢文との関係性や用法の違い

古典の助動詞「す・さす・しむ」の基本と使い方

  • 「す・さす・しむ」の活用
  • 「す・さす・しむ」の接続
  • 意味の説明と訳
  • 漢文との関係性
  • 意味の見分け方
  • 紛らわしいものとの識別

「す・さす・しむ」の活用

助動詞「す」「さす」「しむ」は、いずれも下二段活用の形をとります。下二段活用とは、語尾が「え・え・う・うる・うれ・えよ」という形で変化する活用の種類です。つまり、「す」「さす」「しむ」もこの活用形に従って変化します。

「す・さす・しむ」の活用表

基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形
するすれせよ
さすするすれせよ
しむしめしめしむしむるしむれしめよ

このように、いずれも同じ下二段活用をしますが、語幹部分(「す」「さす」「しむ」)が異なります。特に「さす」は「す」の活用に「」をつけるだけでできます。

活用のポイント

  1. 「す」の未然形は「せ」
    → 未然形は打消や助動詞「む」などと共に使われることが多いです。
    例:「行かせず」(行かせない)
  2. 終止形はそのままの形
    → 文の終わりに来る場合は、「す」「さす」「しむ」となる。
    例:「人に物を読ましむ。」(人に物を読ませる。)
  3. 連体形は「する」「さする」「しむる」
    → 体言(名詞)の前に置くときに使われる。
    例:「彼の作らしむる詩。」(彼が作らせた詩。)
  4. 已然形は「すれ」「さすれ」「しむれ」
    → 「ども」「ば」などの接続詞と共に用いられる。
    例:「書かすれども、うまからず。」(書かせたけれど、上手ではない。)
  5. 命令形は「せよ」「させよ」「しめよ」
    → 指示や命令の形として使われる。
    例:「早く詠ませよ!」(早く詠ませなさい!)

活用を覚えるコツ

「す・さす・しむ」はすべて下二段活用なので、「き」や「まし」のように別々の活用形を覚える必要はありません。一つの活用パターンを覚えてしまえば、すべてに応用できます。また、古典文法では「す・さす」は現代語の「せる・させる」に相当するため、現代語と関連付けることで覚えやすくなります。

「す・さす・しむ」の接続

助動詞「す」「さす」「しむ」は、いずれも動詞の未然形に接続します。ただし、「す」と「さす」には接続できる動詞の種類に違いがあります。

「す」の接続

「す」は、以下の活用の動詞の未然形に接続します。

  • 四段活用(書く・読む など)
  • ナ変活用(死ぬ・往ぬ など)
  • ラ変活用(あり・をり・侍り・いまそかり)

→ これらの動詞は未然形の語尾がア段音になるため、「す」が接続します。

  • 四段動詞:「書かす」(書く+す)
  • ナ変動詞:「死なす」(死ぬ+す)
  • ラ変動詞:「あらす」(あり+す)

「さす」の接続

「さす」は、「す」に接続できない動詞の未然形に接続します。

  • 上一段活用(見る → 見さす)
  • 上二段活用(落つ → 落ちさす)
  • 下一段活用(食ぶ → 食べさす)
  • 下二段活用(捨つ → 捨てさす)
  • カ変活用(来 → 来さす)
  • サ変活用(す → せさす)

→ これらの動詞は未然形の語尾がイ・エ・オ段というア段以外になるため、「す」が直接接続できず、「さす」が用いられます。

  • 上一段動詞:「見さす」(見る+さす)
  • 下二段動詞:「捨てさす」(捨つ+さす)

「しむ」の接続

「しむ」は、活用語の未然形なら何にでも接続可能です。
動詞だけでなく、形容詞や形容動詞にも接続できます。

  • 動詞+しむ:「書かしむ」(書く+しむ)
  • 形容詞+しむ:「美しからしむ」(美しい+しむ)
  • 形容動詞+しむ:「静かならしむ」(静かなり+しむ)

ただし、「しむ」は漢文の影響を受けているため、和文体の古典では「す」「さす」の方が一般的です。

意味の説明と訳

助動詞「す」「さす」「しむ」には、大きく分けて使役尊敬の2つの意味があります。文脈によってどちらの意味で使われているのかを判断することが大切です。

1. 使役(~させる)

使役の意味では、「誰かに~させる」というニュアンスになります。この場合、主語(動作を指示する人)と動作主(実際に動作を行う人)が異なる点に注目することが重要です。

  1. 「弟に手紙を書かす。」
    • 現代語訳:「弟に手紙を書かせる。」
  2. 「侍に歌を詠ましむ。」
    • 現代語訳:「侍に歌を詠ませる。」

使役の見分け方

  • 「~給ふ」がなければ使役で確定
  • 「~せ給ふ」「~させ給ふ」となっていても、使役の対象があれば使役。

2. 尊敬(お~になる)

尊敬の意味では、「動作主に対する敬意を表す」形で使われます。特に、主語が貴人(天皇・貴族・神仏など)である場合、尊敬の意味になることが多いです。

  1. 「帝、歌を詠ませ給ふ。」
    • 現代語訳:「帝が歌をお詠みになる。」
  2. 「大臣、鳥を射給ふ。」
    • 現代語訳:「大臣が鳥を射なさる。」

尊敬の見分け方

  • 後ろに尊敬語(給ふ・おはす・おはします)が付いている場合、尊敬の可能性が高い。
  • 使役の対象がいない(誰かにさせる文脈ではない)場合、尊敬。

まとめ

「す・さす・しむ」は、活用・接続ともに一定のルールがあり、適切な使い分けを覚えることが重要です。また、使役と尊敬のどちらの意味なのかを見極めるために、文脈をよく読むことが求められます。演習を通じて、しっかりと使いこなせるようになりましょう。

漢文との関係性

助動詞「す・さす・しむ」は、日本の古典文法において使役や尊敬を表す役割を持ちますが、その中でも特に「しむ」は漢文の影響を強く受けていることで知られています。日本の古典文学と漢文は密接な関係があり、特に平安時代以前の文献では、漢文訓読による表現が多く取り入れられていました。その影響が「しむ」の使い方にも表れています。

漢文における「しむ」の起源

「しむ」は、漢文の使役の助字「使」「令」「遣」「教」などに由来します。これらの漢字は、「~させる」という意味を持ち、古代の日本では漢文を訓読する際に、それに対応する日本語の表現として「しむ」が用いられました。例えば、次のような漢文があります。

  • 使人読書(人をして書を読ましむ)
  • 令臣仕官(臣をして官に仕へしむ)

このように、「使」「令」などの助字の後に動詞が続く形は、日本語では「AをしてBせしむ」という形で訳されることが一般的でした。このため、日本語の文章の中でも「しむ」が使われるようになり、特に公式文書や歴史書の中でよく見られました。

「しむ」と和文の違い

「しむ」は漢文由来のため、和文体の文学作品よりも、歴史書や公的文書において多く使われました。たとえば、『日本書紀』や『万葉集』には「しむ」の用例が数多く見られますが、『源氏物語』や『枕草子』などの平安文学においては、あまり使われません。これは、和文の表現では「す」や「さす」のほうが一般的だったためです。

しかし、『宇津保物語』のように、漢文調の影響を受けた作品では「しむ」が多用される傾向にあります。これは、物語の中で公式な書簡や天皇の命令などを表す際に、漢文風の言い回しを意識していたためです。

現代の漢文学習との関係

現代の高校漢文の授業では、「使役の助字」を学ぶ際に「しむ」との関連性がよく取り上げられます。特に「AをしてBせしむ」という構文は、漢文を訓読する際の基本形であり、助動詞「しむ」がそのまま対応する形であることを知ることで、漢文と古典文法の両方を理解しやすくなります。

このように、「しむ」は日本語の使役表現の一部であると同時に、漢文と深い関係を持つ助動詞であるため、古典を学ぶ際には漢文とのつながりを意識すると、よりスムーズに理解できるでしょう。

意味の見分け方

助動詞「す・さす・しむ」には、大きく分けて使役尊敬の二つの意味があります。しかし、これらの意味は文脈によって異なり、単に語形だけで判断することはできません。適切に意味を見分けるためには、いくつかのポイントを押さえておくことが重要です。よく質問がでるところなのでしっかり理解しておきましょう。

1. 使役の見分け方

使役の意味になる場合、基本的には「誰かに~させる」という意味が成り立ちます。そのため、動作を行う人(主語)と、実際にその動作をする人(動作主)が異なることが特徴です。

例えば、次の文を見てみましょう。

  • 「子に書かしむ。」
  • 「侍に詩を詠ます。」

どちらも「子」や「侍」という動作主が明示されており、主語(使役を命じる人)とは異なることがわかります。このように、「~に」や「~をして」などの助詞がある場合は、使役の意味として判断しやすいです。

また、次のような文も使役の意味と考えられます。

  • 「帝、詩を詠ましむ。」

この場合、文脈によっては帝が詩を詠むのではなく、「誰かに詠ませる」可能性があります。使役か尊敬か迷った場合は、「す・さす・しむ」の後ろに尊敬語があるかどうかを確認することが重要です。なければ「使役」と考えて訳で確認しましょう

2. 尊敬の見分け方

尊敬の意味になる場合は、動作の主体に敬意が込められています。特に、主語が天皇や貴族などの高貴な人物である場合は、尊敬の意味になることが多いです。

  • 「殿下、物語を語らしめ給ふ。」
    • → 「殿下がお話しになる。」(尊敬)

また、後続の語が尊敬表現である場合も、尊敬の意味になる可能性が高いです。

  • 「許させ給ふ」
    • → 「お許しになる。」(尊敬)

このように、助動詞「す・さす・しむ」の後に「給ふ」「おはす」などの尊敬語が続く場合は、尊敬の意味と考えられます。尊敬語があった場合は、使役の対象者がいるかどうかを見てみましょう。いない場合は尊敬になります。

3. まとめ

以上のことをまとめると以下の表のように考えるとよいでしょう。

  1. 助動詞「す・さす・しむ」の後に「給ふ」などの尊敬語がないか確認する。なかったら使役で確定
  2. 尊敬語があった場合は、使役の対象者があるかどうかを確認する。あれば使役、なかったら尊敬で確定。ただし、この使役の対象者はよく省略されるので、文脈確認を重視

紛らわしいものとの識別

助動詞「す・さす・しむ」は、いくつかの紛らわしい表現と混同されることがあります。特に、以下の点に注意が必要です。

1. サ行変格動詞「す」との識別

「す」は、助動詞としてだけでなく、動詞(サ行変格動詞)としても存在します。

  • 助動詞の「す」
    • 「物語を語らす」 → 使役(語らせる)
  • サ変動詞の「す」
    • 「学問をす」 → 動詞(勉強をする)

助動詞の「す」は動詞の未然形に接続しますが、サ変動詞の「す」はそれ自体が自立語(他の語がなくてもなりたつもの)であるため、文節によって見分ける必要があります。文節の先頭には常に自立語がくると考えると見分けやすくなります。

先ほどの例で示すと以下のようになります。

  • 助動詞の「す」
    • 「物語を/語らす」 → 使役(語らせる)
  • サ変動詞の「す」
    • 「学問を/す」 → 動詞(勉強をする)

このように文節に分けると識別が容易になります。

2. 過去の助動詞「き」との識別

助動詞「す」の未然形は「せ」ですが、過去の助動詞「き」の未然形「せ」と見分けがつきにくい場合があります。

  • 使役の「せ」
    • 「書かせば」 → 「書かせるならば」
  • 過去の「せ」
    • 「知りせば」 → 「知っていたならば」

過去の「せ」は、動詞の連用形に接続するため、前にある動詞が連用形か未然形かを確認すると区別しやすくなります。

3. 受身・尊敬の助動詞「る・らる」との識別

「す・さす・しむ」は使役と尊敬の意味を持ちますが、同じく尊敬の意味を持つ助動詞「る・らる」と混同されることがあります。

  • 「詠まる」(受身・尊敬・自発・可能)
  • 「詠ましむ」(使役・尊敬)

両者はともに尊敬の意味を持ちますが、「る・らる」は自発・受身・可能の意味も含むため、主語の行動が「自発的かどうか」を確認することが重要です。


まとめ

助動詞「す・さす・しむ」は、漢文の影響を受けたものと、和文として発展したものがあり、それぞれの用法を見分ける必要があります。また、使役と尊敬の区別や、サ変動詞・受身表現との混同を避けることも重要です。古文の読解では、単語単体でなく文脈をしっかり読み取ることが鍵となります。

古典の助動詞「す・さす・しむ」の問題での出題傾向

  • 短文演習問題
  • 複文演習問題
  • 素早く識別するコツ

短文演習問題

助動詞「す・さす・しむ」の理解を深めるためには、実際の古文でどのように使われるのかを確認し、問題を解きながら知識を定着させることが大切です。ここでは、比較的短い文を用いた演習問題を紹介します。短文での演習は、助動詞の意味や使い方を素早く判断する訓練として非常に有効です。


短文演習の目的

短文演習では、助動詞「す・さす・しむ」がどのように接続し、どのような意味で使われているかを正しく判別することが求められます。特に、次のポイントを意識しながら解答することが重要です。

  1. 助動詞が使役の意味か、尊敬の意味かを判断する
  2. 直前の動詞の活用形を確認し、正しく助動詞が接続しているかを把握する
  3. 尊敬語(給ふ・おはす など)が後続しているかを見て、意味を判断する
  4. 使役の場合、使役対象(~に、~をして)が文中にあるかを確認する

短文演習問題①

「帝、歌詠ましむ。」

この文の「詠ましむ」はどのような意味で使われているでしょうか。使役か尊敬かを考えながら訳してみてください。

解答と解説(クリックで表示)

「しむ」は、すべての動詞の未然形に接続できる使役の助動詞です。「詠む」の未然形「詠ま」に接続して「詠ましむ」となっています。

次に、この文の主語である「帝」を見てみましょう。帝は身分が高い人物であり、敬語が使われることが多いです。しかし、ここでは「詠ましむ」の後に「給ふ」や「おはす」といった尊敬語が続いていません。そのため、「しむ」は使役の意味であると考えられます。

訳:帝が(誰かに)歌を詠ませる。

使役の意味であることを判断するポイントは、①主語が上位者であること、②使役の対象となる人物が省略されているが、誰かに詠ませる状況が自然であることです。


短文演習問題②

「下臈(げろう)に酒飲ますることは、心すべきことなり。」 (『徒然草』より)

この文では、「飲まする」に助動詞「す」が使われています。この「す」は、使役の意味か尊敬の意味かを考えてみましょう。

解答と解説(クリックで表示)

「飲まする」は、「飲む」の未然形「飲ま」に助動詞「す」の連体形「する」が接続している形です。助動詞「す」は、四段・ナ変・ラ変の未然形に接続するため、ここでは正しく接続されています。

「す」の後に尊敬語がないため、尊敬の意味ではなく使役の意味であると判断できます。また、「下臈(身分の低い者)」に「酒を飲ませる」とあるので、身分の高い者が下位の者に対して行動を命じていることがわかります。

訳:身分の低い者に酒を飲ませることは、注意すべきことである。

このように、「す」は使役の意味を持ち、身分の高い人が低い人に何かをさせる文脈でよく使われます。


短文演習問題③

「許させ給はず。」 (『源氏物語』より)

この文の「させ」はどのような意味を持つでしょうか。「す・さす・しむ」の使い分けに注意しながら考えてみましょう。

解答と解説(クリックで表示)

「許させ給はず」は、「許す」の未然形「許さ」に助動詞「さす」の連用形「させ」が接続し、その後に尊敬語「給ふ」の未然形「給は」が続いています。

「さす」は、「す」と同じく使役の助動詞ですが、四段・ナ変・ラ変以外の動詞に接続します。「許す」は四段活用なので、本来は「す」が接続できるはずですが、ここでは「さす」が使われています。これは「さす」の尊敬の用法が使われているためです。

さらに、後続の「給ふ」によって二重敬語の形になっていることから、この文では使役ではなく、尊敬の意味として用いられています。

訳:(帝が)お許しにならない。

「さす」や「す」が尊敬の意味で使われる場合は、後に尊敬語が続いているかどうかを確認することが重要です。


短文演習問題④

「駅(うまや)の長(ちょう)のいみじく思へる気色を御覧じて、作らしめ給ふ詩、いと悲し。」 (『大鏡』より)

この文の「作らしめ給ふ」は、「しむ」が使われています。「しむ」の意味を考えてみましょう。

解答と解説(クリックで表示)

「作らしめ給ふ」は、「作る」の未然形「作ら」に助動詞「しむ」の連用形「しめ」が接続し、その後に尊敬語「給ふ」が続いています。

「しむ」は、動詞の未然形に接続し、使役または尊敬の意味を持ちます。ここでは後続に尊敬語「給ふ」があるため、尊敬の意味として判断できます。

訳:(帝が)お作りになった詩は、とても悲しい。

「しむ」は平安時代にはあまり使われなくなっていた助動詞ですが、公的な場面や漢文調の文章には残っていました。そのため、漢文調の『大鏡』のような作品には「しむ」の用例が見られます。


まとめ

短文演習を通じて、「す・さす・しむ」の使い方や意味の判別方法を確認しました。重要なのは、主語が誰なのか、後続に尊敬語があるか、使役の対象が明示されているかを見極めることです。

  • 使役の「す・さす・しむ」は、誰かに何かをさせる文脈で使われる。
  • 尊敬の「す・さす・しむ」は、後に尊敬語(給ふ・おはすなど)が続く場合に用いられる。

短い文の中でも、助動詞の意味を正しく理解することは、長文読解にも役立ちます。演習問題を解きながら、正確に識別できるようになりましょう。

複文演習問題

助動詞「す・さす・しむ」の理解を深めるためには、単独の短文だけでなく、複数の要素が絡み合った複文の読解も重要になります。複文では、主語が複数登場したり、助動詞の使役・尊敬の判断が難しくなったりするため、より高度な読解力が求められます。そのため、ここでは「す・さす・しむ」を含む複文演習問題を通して、助動詞の適切な識別方法や解釈のコツを身につけていきましょう。


複文演習の目的

複文の演習では、以下のような力を養うことができます。

  1. 主語の識別と動作の関係を理解する
  2. 助動詞が「使役」か「尊敬」かを判断する
  3. 複数の助動詞が絡む場合の文の構造を把握する
  4. 助動詞の活用形や接続の違いを意識する
  5. 敬語表現との関係を考えながら正確に訳す

これらのポイントを意識しながら、次の演習問題に取り組んでみましょう。


複文演習問題①

「帝、童に楽を奏せさせ給ひて、御涙落ち給ふ。」

この文には「奏させ給ひて」という表現が見られます。「させ」は助動詞「さす」ですが、これが使役なのか尊敬なのかを考えながら訳してみましょう。

解答と解説(クリックで表示)

この文を分析すると、まず主語は「帝」であり、動作を行うのは「童(わらべ)」です。「奏す(そうす)」はサ行変格活用の動詞で、「奏せさせ」はその未然形「奏せ」に助動詞「さす」の連用形が接続しています。

次に、助動詞「さす」の後に「給ふ」がある点に注目しましょう。「給ふ」は尊敬語であり、これが後続すると「さす」自体も尊敬の意味になる可能性があります。しかし、ここでは「帝が童に奏楽させる」という文脈が自然なので、「さす」は使役の意味と判断できます。

訳:帝が童に楽を演奏させて、お涙を流された。

この文では、帝が直接奏楽するのではなく、童に楽を奏させているため、「さす」は使役として機能しています。一方で、「落ち給ふ」は帝自身の動作を表しているため、ここでは「給ふ」が純粋な尊敬語として使われています。


複文演習問題②

「女房ども、御琴召して、内にもこの方に心得たる人びとに弾かせたまふ。」 (『源氏物語』より)

この文では、「弾かせたまふ」という表現が使われています。この「す」はどのような意味を持つでしょうか。

解答と解説(クリックで表示)

まず、この文の主語は「女房ども(宮廷の女性たち)」です。「御琴を召す」は、「(貴人が)楽器をお取り寄せになる」という意味で、「召す」が尊敬語として機能しています。

次に「弾かせたまふ」を見ていきましょう。「弾く」の未然形「弾か」に助動詞「す」の連用形「せ」が付き、その後に尊敬語「給ふ」が続いています。この「す」は使役の意味である可能性が高いですが、文脈的には、主語である「女房ども」が直接演奏するのではなく、「この方に心得たる人びと(楽に通じた人たち)」に演奏を命じていると考えられます。

そのため、「弾かせたまふ」の「す」は使役を示し、「給ふ」は命じる主体(貴人)への尊敬を示していると解釈できます。

訳:(女房たちは)御琴をお取り寄せになり、(帝は)宮廷の楽に通じた人々にお弾かせになった。

このように、助動詞「す」の後に尊敬語が付いている場合でも、使役の意味を持つことがあるため、文全体の主語や動作の関係をしっかり分析することが重要です。


複文演習問題③

「上の御前に候ふ者どもに、何事も語らしめ給ふ。」 (『大鏡』より)

この文の「語らしめ給ふ」に注目し、「しむ」の意味を考えてみましょう。

解答と解説(クリックで表示)

この文では、「候ふ者ども」が「語る」動作をする対象となっています。「語らしめ給ふ」は、「語る」の未然形「語ら」に助動詞「しむ」の連用形「しめ」が付き、その後に尊敬語「給ふ」が接続しています。

ここで「しむ」が使役か尊敬かを見極めるポイントは、「語る」という動作を誰が行うのかを考えることです。「候ふ者ども」が語る主体であり、「上の御前(=天皇などの貴人)」がその語らせる主体であることがわかります。

また、助動詞「しむ」は比較的格式のある表現であり、平安時代には漢文訓読調の文章に多く用いられました。このため、この文の「しむ」は「何事も(あらゆる事柄について)語らせる」という使役の意味であると考えられます。

訳:(貴人が)お側に仕えている者たちに、あらゆる事柄を語らせなさる。

このように、「しむ」は使役の意味でありながら、「給ふ」によって貴人への敬意を示す構造になっています。


複文演習問題④

「帝、急ぎて参らしむ。」

この文では「参らしむ」に助動詞「しむ」が使われています。この「しむ」の意味を考えてみましょう。

解答と解説(クリックで表示)

「参る」は「(身分の低い者が)高貴な人のもとへ行く・参上する」という意味の謙譲語の動詞です。「参らしむ」とは、「参る」の未然形「参ら」に助動詞「しむ」の終止形が接続した形です。

この文の主語である「帝(天皇)」は、自ら「参る」ことはしません。誰かに命じて行かせる場面であると考えられるため、「しむ」は使役の意味として解釈できます。また、後ろに尊敬語がない時点で使役と考えてもよいでしょう。

訳:帝は急いで(誰かを)参上させた。

「しむ」は格式ばった文章に使われることが多く、特に『日本書紀』のような漢文訓読体の文章では頻繁に見られます。このような文章を読む際には、敬語表現や主語の関係に注意しながら訳を考えることが重要です。


まとめ

複文の演習問題を通じて、「す・さす・しむ」の使い方をより深く理解することができます。重要なポイントは以下の通りです。

  • 主語が誰か、動作の主体が誰かを明確にする
  • 助動詞の後ろに尊敬語があるかどうかで使役・尊敬を見極める
  • 漢文訓読体では「しむ」がよく使われるが、意味の判断は慎重に
  • 「す」「さす」は主に和文体で使われ、接続する動詞の種類に注意

複文を読む際には、構造をしっかりと分析し、助動詞の働きを正しく理解することが大切です。問題演習を通じて、さらに深く学んでいきましょう。

素早く識別するコツ

「す・さす・しむ」の助動詞を素早く識別するためには、基本的な識別ポイントを押さえつつ、効率よく判断する方法を身につけることが大切です。

古典の文章を読む際には、一つ一つ丁寧に解釈することが求められますが、試験や実際の読解では素早く意味を理解するスキルも重要になります。ここでは、「す・さす・しむ」を瞬時に見分けるための具体的なコツを紹介します。


① 接続に注目する

助動詞「す・さす・しむ」を見分ける上で、最も基本的かつ効果的な方法は 接続する語の活用形 を確認することです。

  • 「す」→ 四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に接続(ア段音)
  • 「さす」 → 四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形に接続(ア段音以外)
  • 「しむ」 → 未然形に接続

例えば、次のような文があるとします。

「子に学ばしむ。」

この場合、「学ば」は「学ぶ」の未然形であり、「学ぶ」は四段活用なので、「しむ」が使われています。接続をすばやく判断することで、まず「す・さす・しむ」のうちどれが使われているかを絞り込むことができます。


② 主語と目的語を確認する

「す・さす・しむ」は使役の意味を持つことが多いため、「誰が」「誰に」「何をさせるのか」 を意識すると、素早く識別できます。

例えば、次の文を考えてみましょう。

「帝、近習に詠ませ給ふ。」

この場合、主語は「帝(みかど)」、目的語は「近習(宮中で仕える人々)」となっています。「詠ませ」は「詠む(和歌を詠む)」の未然形「詠ま」に「さす」がついた形で、「帝が近習に詠むようにさせる」という使役の意味になります。

逆に、主語が貴人であり、動作の主体が自分であれば、「す・さす・しむ」は尊敬の意味になることもあるため、文の前後関係を確認することも重要です。


③ 文末の敬語表現に着目する

助動詞「す・さす・しむ」の識別において、文末にある 敬語表現 に注目することで、素早く意味を判断できます。

  • 「~しむ。」「~させ、」 → 使役の可能性が高い
  • 「~しめ給ふ」「~せ給ふ → 尊敬の意味になることもある

例えば、次のような文があったとします。

「大臣、家司に文を書かせ給ふ。」

この場合、「書かせ」は「書く」の未然形「書か」に「す」が接続した形です。さらに、「給ふ」という敬語がついているため、「大臣が家司に手紙を書かせる(使役)」という意味であるとわかります。

しかし、以下のような場合もあります。

「天皇、和歌を詠ませ給ふ。」

この場合、天皇が自ら詠んだ可能性もありますが、「詠ませ」の「せ」が使役の意味を持つため、「天皇が誰かに和歌を詠ませる」とも判断できます。このように、敬語がついている場合は「誰が誰に何をさせたのか?」を意識しながら素早く判断することが求められます。


④ 漢文調の表現に注意する

「しむ」は、漢文調の文章で頻繁に使われる傾向があります。そのため、文章の全体の構造を見て、漢文に由来する表現かどうかを判断すると、識別がスムーズになります。

例えば、以下の文を考えます。

「帝、群臣に詔して、詩を作らしむ。」

「作らしむ」は、「作る」の未然形「作ら」に「しむ」が接続しています。さらに、文の形式が「帝(天皇)」+「群臣(家臣)」+「詔す(命令する)」となっており、漢文の書き下し文のような形になっています。

このような場合、「しむ」は使役の意味を持つ可能性が高く、「天皇が家臣たちに詩を作らせる」という訳になります。漢文調の文章では「しむ」が使われやすいことを覚えておくと、判断がスムーズになります。


⑤ 文脈から助動詞の意味を考える

「す・さす・しむ」は 使役だけでなく尊敬の意味 を持つことがあるため、単に接続や文末の形を見るだけでなく、文脈全体を見て判断する ことが重要です。

例えば、次の文を考えます。

「大臣、詩を詠ませ給ふ。」

この場合、「詠ませ」の「さす」が使役の意味を持つと考えられますが、もし文脈的に「大臣が自ら詠んだ」という内容であれば、「詠ませ給ふ」は「詠みなさる(尊敬)」と解釈されることもあります。

そのため、主語・目的語・敬語表現・文全体の流れ を総合的に見て、助動詞の意味を決定することが大切です。


まとめ

「す・さす・しむ」の識別を素早く行うためのポイントをまとめると、次の5つが重要になります。

  1. 接続に注目する → 「す」は四段・ナ変・ラ変の未然形、「さす」はそれ以外
  2. 主語と目的語を意識する → 「誰が」「誰に」「何をさせるのか」を考える
  3. 文末の敬語表現を確認する → 「給ふ」がつく場合は要注意
  4. 漢文調の表現を見極める → 漢文調なら「しむ」が使われやすい
  5. 文脈から助動詞の意味を考える → 使役か尊敬かを慎重に判断する

これらのポイントを意識しながら問題演習を重ねることで、「す・さす・しむ」の識別が素早く、正確にできるようになります。

古典の助動詞「す・さす・しむ」の基本と識別ポイント

たく先生
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使役の助動詞は識別のコツをつかめばすぐにできるようになります。しっかり取り組んでみましょう!

  • 「す・さす・しむ」は下二段活用の助動詞である
  • すべて動詞の未然形に接続する
  • 「す」は四段・ナ変・ラ変動詞に接続する
  • 「さす」は「す」が接続できない動詞に接続する
  • 「しむ」はあらゆる活用語の未然形に接続可能である
  • 主な意味は「使役」と「尊敬」の2種類である
  • 使役の「す・さす・しむ」は「~させる」の意味になる
  • 尊敬の「す・さす・しむ」は「お~になる」の意味になる
  • 使役か尊敬かは文脈と敬語表現で判断する
  • 漢文由来の表現では「しむ」が多く使われる
  • 「す・さす・しむ」は現代語の「せる・させる」に近い
  • 「す」とサ変動詞「す」は区別が必要である
  • 助動詞「る・らる」との識別には受身・可能の意味に注意する
  • 短文・複文を用いた演習で識別力を養うことが重要である
  • 接続や敬語表現に着目すれば素早く判断できる
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たく先生
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高校の現役教員として活動中。学力向上、文章力向上、大学入試情報など発信中。このブログを通じて、日々の学びや知識を共有し、少しでも読者の皆さまのお役に立ちたいと考えています。
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