古文の助動詞「たり」「り」意味・活用形と使い分けを徹底整理【練習問題付】

古文を学習する上で、多くの人が「難しい」と感じるものの一つに助動詞がありますね。特に助動詞「たり」「り」は、意味や用法が似ていたり、複数の種類があったりと、混乱しやすいポイントかもしれません。
これらの助動詞の「活用形」を覚え、「意味」を正確に捉え、文脈に応じた「使い分け」ができるようになることは、古文読解の大きな助けとなります。また、助動詞「り」の連体形などに見られる「「る・れ」の識別」も、正確な解釈には欠かせません。
この記事では、そんな助動詞「たり」「り」について、基本から識別方法、現代語とのつながりまで、分かりやすく解説していきます。
この記事を読むと、以下の点について理解が深まります。
助動詞 「たり」「り」の基本:意味と活用形

助動詞「たり」の主な意味とは?

助動詞「たり」は、古文を読む上で非常によく目にする助動詞の一つです。この助動詞が持つ主な意味は、「完了」と「存続」の二つであると覚えておきましょう。
「完了」は、動作や作用がその時点で完了したことを示し、「~た」「~てしまった」と訳すことが多いです。一方、「存続」は、ある動作や作用の結果が依然として続いている状態、あるいは動作そのものが継続している状態を表し、「~ている」「~てある」などと訳されます。
どちらの意味になるかは文脈から判断する必要がありますが、基本的にはまず「存続」で訳してみて、不自然であれば「完了」と考えるとスムーズに解釈できる場合があります。

助動詞「たり」は、もともと「てあり」という言葉が変化してできたものなんですよ。

へえ、「てあり」ですか!それで「~てある」という存続の意味にも繋がるんですね。
例えば、「花咲きたり」という文があった場合、「花が咲いた」という完了の意味にも、「花が咲いている」という存続の意味にも解釈できる可能性があります。前後の文脈や状況から、より自然な方を選ぶことが大切です。
助動詞「り」が示す完了・存続の意味

助動詞「り」もまた、主に「完了」と「存続」の意味を持つ助動詞です。この点で、先ほど解説した助動詞「たり」と基本的な意味は共通しています。
「完了」であれば「~た」「~てしまった」、「存続」であれば「~ている」「~てある」と訳すのが一般的です。助動詞「たり」と同様に、文脈によってどちらの意味で使われているかを見極めることが重要になります。

「たり」と「り」って、意味がほとんど同じなんですね。じゃあ、どうして二つもあるんですか?

良い質問ですね。意味は似ていますが、接続の仕方や使われ始めた時代が違うんですよ。そのあたりは、また後で詳しく解説しますね。
例文としては、「鳥、鳴けり」という文があった場合、文脈によって「鳥が鳴いた(完了)」とも「鳥が鳴いている(存続)」とも解釈できます。意味が似ているからこそ、他の要素、特に接続に注目することが識別の一つの鍵となります。
「たり」「り」それぞれの活用形を解説

助動詞「たり」と「り」は、どちらもラ行変格活用(ラ変型)と同じ活用をします。これは覚える上で非常に重要なポイントです。
以下にそれぞれの活用形を示します。
活用形 | 助動詞「たり」 | 助動詞「り」 |
未然形 | たら | ら |
連用形 | たり | り |
終止形 | たり | り |
連体形 | たる | る |
已然形 | たれ | れ |
命令形 | たれ | れ |

活用表で見ると、ラ変の動詞「あり」と活用が似ていますね!

その通りです。「たり」は「てあり」、「り」も動詞の連用形に「あり」がついてできた言葉なので、元の「あり」の活用が色濃く残っているんです。
この活用形を正確に覚えておくことは、文中での「たり」や「り」の形を正しく認識し、文法的な意味を理解する上で不可欠です。特に連体形や已然形は、他の助動詞との識別の際にも重要になってきます。
古文の学習には、このような活用表を自分で書き出す練習も効果的です。ぜひお試しください。助動詞の活用形の記事はこちら。
断定の助動詞「たり」の意味と活用形

これまで説明してきた完了・存続の助動詞「たり」とは別に、古文にはもう一つ、断定の意味を表す助動詞「たり」が存在します。これは全く別の助動詞なので、しっかりと区別して覚える必要があります。
断定の助動詞「たり」の主な意味は、「~である」「~だ」という断定です。何かがそうであると強く言い切るニュアンスを持ちます。
そして、この断定の「たり」の活用は、形容動詞型(ナリ活用・タリ活用があるうちのタリ活用と同じ型)になります。
活用形 | 断定の助動詞「たり」 |
未然形 | たら |
連用形 | と、たり |
終止形 | たり |
連体形 | たる |
已然形 | たれ |
命令形 | たれ |

えっ、「たり」が二種類もあるんですか!これはややこしいですね…。

そうなんです。でも、接続の仕方を見れば、はっきりと区別できるんですよ。完了・存続の「たり」は主に用言の連用形に付きますが、断定の「たり」は主に体言(名詞)に接続します。
この接続の違いが、二つの「たり」を見分ける最大のポイントです。例えば、「学生たり」であれば「学生である」という断定の意味になり、「花咲きたり」の「たり」とは接続が異なるため、意味も違うことが分かります。この違いを意識することが、正確な読解への第一歩です。
古典における助動詞「り」の接続

助動詞「り」は、完了・存続という基本的な意味は「たり」と似ていますが、接続する語の活用形が限定されているという大きな特徴があります)。この接続ルールを理解することが、「り」を正しく見抜く鍵となります。
助動詞「り」が接続するのは、以下の二つの形です。

「り」の接続は「サ未四已(さみしい)」って覚えました!サ変の未然形と四段の已然形ですね。

素晴らしいですね、みちかさん。その語呂合わせはとても覚えやすいです。「サ未四已(さみしい)リカちゃん」のように、人物名と結びつけて覚える方法もよく知られていますよ。

へえ、面白い覚え方があるんですね!それなら僕も覚えられそうです。
このように、助動詞「り」は接続できる相手が限られています。文中に出てくる「ら・り・る・れ」の音が、動詞の特定の活用形に続いているかどうかを確認することで、それが助動詞「り」なのか、それとも他の語句なのかを判断する手がかりになります。
特に、活用語尾が「エ段」の音に「り」が続いている場合は、助動詞「り」である可能性が高いと言えます。
助動詞 「たり」「り」の識別と使い分け
古文での「たり」と「り」の使い分け

前述の通り、助動詞「たり」と「り」は、完了・存続という基本的な意味が非常に似ています。では、古文の世界ではこれらがどのように使い分けられていたのでしょうか。結論から言うと、最も大きな違いは「接続」にあります。
助動詞「たり」は主に活用語の連用形に接続し、比較的多くの種類の言葉に付くことができます。これに対して、助動詞「り」はサ行変格活用の未然形と四段活用の已然形(または命令形)という、限られた形にしか接続しません。
歴史的に見ると、助動詞「り」の方が古くから使われており、後に「たり」が登場しました。「たり」は「てあり」が変化したもので、より広い範囲の言葉に接続できる汎用性の高さから、次第に「り」よりも多く使われるようになっていったと考えられています。

意味が似ているのに二つあるのは、言葉の成り立ちや歴史が関係しているんですね。「り」は接続が限定的で少し使い勝手が悪かったため、「たり」が便利で広まった、というイメージです。

なるほど、だから現代語の「た」の元になったのは「たり」の方なんですね。
ただし、和歌のような音数が重視される文学では、一音の違いが大きな意味を持つため、「り」も好んで使われました。「咲けり」と「咲きたり」では響きも異なりますし、表現のニュアンスを調整する上で、これらの助動詞が使い分けられていたのです。
古文を読む際には、まず接続に注目し、どちらの助動詞なのかを判断することが大切です。
完了と断定:「たり」の使い分けと識別

助動詞「たり」には、完了・存続を表すものと、断定を表すものの二種類があることは既に学びました。これらは形が似ているため混同しやすいですが、文脈での意味だけでなく、接続する語の種類によって明確に識別できます。

接続する言葉の種類が違うんですね!それなら見分けられそうです。

その通りです。文中で「たり」を見たら、その直前の言葉が何なのか、どんな形なのかを確認する癖をつけると良いですよ。
例えば、「夢なりしことも今はた現実たり」という文があったとします。この「現実たり」の「たり」は、直前の「現実」という名詞に接続しているので、断定の「~である」という意味だと判断できます。
このように、接続に着目することで、二つの「たり」を正確に見分けることが、古文を正しく理解するための重要なステップとなります。
古文の文法書や問題集で、多くの例文に触れて識別の練習を重ねましょう。

助動詞「り」:「る・れ」の識別が重要

助動詞「り」の活用形のうち、連体形の「る」と已然形・命令形の「れ」は、他の助動詞や活用語尾と形が同じになることがあるため、特に識別が重要になります。
例えば、助動詞「る」には受身・可能・自発・尊敬の意味を持つものがありますし、動詞の活用語尾が「る」「れ」で終わるものも多数存在します。これらと助動詞「り」の「る」「れ」を混同してしまうと、文全体の意味を誤って解釈してしまう可能性があります。
識別する際の最大のポイントは、やはり接続です。助動詞「り」は、サ行変格活用の未然形(~せ)や四段活用の已然形・命令形(エ段の音)に接続します。

つまり、「る」や「れ」の直前の音が「せ」や「エ段」だったら、助動詞「り」の可能性が高いということですね!

その通りです、みちかさん。例えば「花咲ける庭」の「咲ける」は、四段動詞「咲く」の已然形「咲け」に「る」が付いているので、助動詞「り」の連体形だと判断できます。
一方で、「見らる」の「る」は、動詞「見る」の未然形「見」に接続しているので、受身・可能・自発・尊敬の助動詞「らる」の終止形の一部です。
このように、形だけにとらわれず、必ず接続を確認する習慣をつけましょう。
現代語に残る「り」の形と「る・れ」の識別

古文の助動詞「り」は、現代語ではほとんど使われなくなりましたが、その名残は一部の慣用的な表現に見られます。特に、連体形「る」の形で残っている例がいくつかあります。
代表的な例としては、「眠れる森の美女」や「死せる孔明生ける仲達を走らす」といった表現が挙げられます。「眠れる」は「眠っている」、「死せる」は「死んでいる(死んだ状態の)」という意味で、古語の助動詞「り」の存続の意味合いを引き継いでいます。

あ、「眠れる森の美女」って、そういうことだったんですね!古文の名残だったとは驚きです。

そうなんです。このように、普段何気なく使っている言葉の中にも、古語の助動詞の痕跡が隠れていることがあるんですよ。
これらの表現の中の「る」は、現代語の感覚では動詞の一部のように感じられるかもしれませんが、元々は助動詞「り」の連体形でした。
この知識は、古文を読む際に助動詞「り」の連体形「る」が出てきたとき、現代語に残るこれらの表現を思い出すことで、意味を類推する助けになるかもしれません。
ただし、現代語の「る」が全て古語の「り」に由来するわけではありません。例えば、可能動詞の「見れる」や、単純な動詞の連体形(例:走る人)など、多様な「る」が存在します。古語の助動詞「り」の「る」かどうかを判断するには、やはり前述の通り、サ変の未然形や四段の已然形(エ段の音)に接続しているかという古典文法のルールに立ち返ることが重要です。
現代の「~たり~たり」多様な用法と使い分け

古文の助動詞「たり」は、完了・存続の意味が中心でしたが、現代語では主に接続助詞として、「~したり~したりする」という形で使われていますね。この現代語の「たり」も、実は多様なニュアンスを持っています。
最も基本的な用法は、二つ以上の動作や状態を並列して挙げるものです。
例:「休日は本を読んだり、映画を見たりして過ごす。」
また、多くの事柄の中から代表的なものをいくつか例として挙げる場合にも使われます。
例:「会場には、子どもたちが遊んだり、お弁当を広げたりする家族連れの姿が見られた。」
この場合、他にも様々な行動があったことが暗示されます。
さらに、状況によっては、相反する動作や状態が交互に現れることを示すこともあります。
例:「暑かったり寒かったりして体調を崩しやすい。」
古語の助動詞「たり」の用法とは異なりますが、言葉が時代とともに変化してきた様子がうかがえます。

現代語の「たり」も、ただ並べるだけじゃなくて、色々な使い方があるんですね。

そうですね。文脈によって、例示なのか、対比的なものを並べているのかなどを読み取ることが大切です。
これらの用法を理解しておくことは、現代文の読解や表現にも役立ちます。
コラム:「~ている」の成り立ちと助動詞

私たちが日常的に使っている「~ている」という表現。これは現代語ではアスペクト(事柄が時間の中でどのように展開するか)を表す重要な形式ですが、その成り立ちには古語の助動詞が関わっていると考えられています。
「~ている」の語源についてはいくつかの説がありますが、有力なものとして、動詞の連用形に接続助詞「て」が付き、そこに存在を表す補助動詞「いる(居る)」や「ある」が接続した形から発達したという説があります。
特に、古語において完了・存続を表した助動詞「たり」(もとは「てあり」)や、同じく完了・存続の「り」と、存在を表す「あり」「をり(居り)」との関連が指摘されています。
例えば、「てあり」が「たり」になったように、「てをり」が変化して「ている」の原型になったとする考え方や、さらに古くは助動詞「り」に「あり」が付いた形なども、「~ている」状態を表す表現の源流として考えられることがあります。

近年の研究では、平安時代の「ゐたり」(「ゐる(居る)」の連用形+助動詞「たり」)のような形が、「~ている」という表現が広まるきっかけになったのではないか、という説も注目されていますね。

へえー、普段使っている言葉の成り立ちを考えると面白いですね!
このように、現代語の表現も、古語の助動詞の働きや言葉の変化と深く結びついているのです。古文を学ぶことは、私たちが今使っている日本語のルーツを探ることにも繋がります。
助動詞「たり」「り」識別のポイント総括

これまで、助動詞「たり」と「り」の様々な側面を見てきました。最後に、これらの助動詞を正確に識別し、理解するためのポイントをまとめます。

やっぱり、接続ルールをしっかり覚えることが一番大切なんですね!

その通りです。そして、意味や活用、接続といった知識をバラバラに覚えるのではなく、互いに関連付けて理解していくことが、古文読解力アップの秘訣ですよ。

最初は難しそうだったけど、ポイントを整理すると分かりやすくなりました!
これらのポイントを意識して学習を進めることで、助動詞「たり」「り」の識別は決して難しいものではなくなるはずです。
古文の助動詞学習をさらに深めたい方へ。こちらの総合参考書がおすすめです。
