古文の形容動詞を完全攻略!活用から識別まで徹底解説

古文の学習で多くの人がつまずく「形容動詞」。その基本的な役割から、ナリ・タリ活用という活用の種類、そして暗記必須の活用表まで、この記事で基礎からしっかり学べます。
さらに、古文読解の精度を上げる上で最も難しいとされる名詞との識別はもちろん、動詞との識別や副詞との識別についても、具体的な見分け方のコツを分かりやすく解説していきます。この記事を読み終える頃には、形容動詞への苦手意識がなくなり、古典の世界がより鮮やかに見えてくるはずです。
古文の形容動詞とは?基本の活用と役割を解説

この記事では、古文の形容動詞について、以下の5つのポイントからその基本を解説していきます。
形容動詞とは?性質や状態を表す言葉

古文における形容動詞とは、物事の性質や状態を詳しく説明するための言葉(用言)です。
現代語の「静かだ」「きれいだ」「堂々としている」といった言葉に相当し、文を言い切る際の形(終止形)が「~なり」または「~たり」で終わるという、見た目にも分かりやすい大きな特徴を持っています。
形容動詞は文中で様々な役割を果たします。
- 述語になる: 「山、静かなり。」(山は、静かだ。)のように、文末に来て文の結論(述語)となる最も基本的な働きです。
- 連体修飾語になる: 「静かなる山」(静かな山)のように、活用して名詞(体言)を詳しく説明する働きをします。
- 連用修飾語になる: 「静かに歩く」(静かに歩く)のように、活用して動詞(用言)を詳しく説明する働きをします。
このように、文中での働きは形容詞とよく似ています。形容動詞を正確に理解できると、古典作品の情景や登場人物の心情が、より具体的に、そして鮮やかにイメージできるようになります。
形容動詞の成り立ちを知って理解を深めよう

形容動詞がどのようにして生まれたのか、その成り立ちを知ることは、文法理解の大きな助けとなります。
実は、形容動詞はもともと独立した品詞ではなく、「名詞+助詞+動詞」という言葉の組み合わせが、時代と共に一つになったものでした。
具体的には、性質や状態を表す名詞に、場所や状態を示す助詞の「に」や「と」が付き、そこに存在を表すラ行変格活用動詞の「あり」が結びついて誕生しました。
- ナリ活用: 静か(名詞)+ に(助詞)+ あり(動詞) → 静かなり
- タリ活用: 堂々(名詞)+ と(助詞)+ あり(動詞) → 堂々たり

へえー!もとは三つの単語だったんだ!だから連用形に「に」や「と」が出てくるんですね。

その通りです。この成り立ちを理解しておくと、形容動詞の活用がなぜラ変動詞「あり」の活用と似ているのかも、理屈で納得できます。文法は丸暗記ではなく、背景を知ることで忘れにくい知識になりますよ。
形容動詞の活用の種類はナリとタリの2つ

前述の通り、形容動詞には「ナリ活用」と「タリ活用」という2種類の活用の種類が存在します。
この2つは、主にどのような言葉に付くか、そしてどのような文体で使われるかによって、使い分けられる傾向にありました。
ナリ活用:和文の中心、感情を彩る表現
ナリ活用は、主に「あはれなり」や「つれづれなり」のように、和語(日本古来の言葉)に接続します。
人々の主観的な感情や、五感で捉えた感覚的な状態を表すことが多く、『源氏物語』や『枕草子』といった平安時代の女性が中心となって作り上げた「和文」の、繊細で優雅な世界観を表現するのに欠かせないものでした。
タリ活用:漢文由来、硬質で荘重な表現
一方のタリ活用は、主に「堂々たり」や「平然たり」のように、漢語(中国由来の言葉)に接続します。
客観的で硬質、あるいは荘重な状態を表すのが特徴です。そのため、漢文訓読(漢文を日本語として読む手法)の影響が色濃い『平家物語』などの軍記物語や、『方丈記』のような思索的な随筆といった「和漢混淆文」で多用されました。

なるほど。文章のスタイルによって、どちらの活用形が多く使われるか傾向があるのですね。文章を読むだけで、その作品が優雅な雰囲気なのか、硬い雰囲気なのかが掴めそうです。
暗記必須!ナリ・タリ活用の活用表

形容動詞の活用は、パターンが決まっているため、活用表を使って覚えるのが最も効率的です。
ここでは、各活用形が文法的にどのような意味を持つのかも併せて解説します。ラ行変格活用動詞「あり」の活用(ら・り・り・る・れ・れ)を思い出しながら確認すると、より記憶に定着しやすくなります。
ナリ活用 活用表(例:静かなり)
活用形 | 活用語尾 | 文法的な意味・接続 |
未然形 | なら | 打消の「ず」に続く(静かならず) |
連用形 | なり/に | 用言や助動詞「けり」に続く(静かに歩く、静かなりけり) |
終止形 | なり | 文を言い切る |
連体形 | なる | 名詞(体言)に続く(静かなる山) |
已然形 | なれ | 原因・理由の「ば」に続く(静かなれば) |
命令形 | なれ | 命令して言い切る |
タリ活用 活用表(例:堂々たり)
活用形 | 活用語尾 | 文法的な意味・接続 |
未然形 | たら | 打消の「ず」に続く(堂々たらず) |
連用形 | たり/と | 用言や助動詞「けり」に続く(堂々と立つ、堂々たりけり) |
終止形 | たり | 文を言い切る |
連体形 | たる | 名詞(体言)に続く(堂々たる態度) |
已然形 | たれ | 原因・理由の「ば」に続く(堂々たれば) |
命令形 | たれ | 命令して言い切る |
この活用表は古文読解の全ての基礎となります。何度も見返せるように、この記事をブックマークしておくことをおすすめします。
古典作品における形容動詞の役割と表現

形容動詞は、単なる文法項目ではなく、古典作品の中で物語に深みと彩りを与える重要な役割を担っています。
例えば、『源氏物語』では、光源氏が物思いにふける場面や、美しい自然の情景を描写する際に、「あはれなり」(しみじみと趣深い)や「ゆかし(げ)なり」(見たい、聞きたい、知りたい)といったナリ活用の形容動詞が効果的に使われ、登場人物の繊細な心の動きを読者に伝えます。
一方、『平家物語』では、武士たちが動じない精神性を示すために「平然たり」が、広大な戦場の様子を描くために「広々たり」が使われるなど、タリ活用の形容動詞が物語に重厚さとダイナミズムを与えています。
このように、形容動詞の種類と使われ方を知ることは、作品の文体や時代背景、そして作者が伝えたかったメッセージを深く理解する上で、非常に大きな手がかりとなるのです。
これで迷わない!形容動詞と他品詞の識別法

ここからは、この記事で最も重要なセクションです。以下のポイントから、形容動詞と紛らわしい他品詞との識別法を徹底解説します。
古文の形容動詞は品詞の識別が最重要ポイント

形容動詞の学習において、最も重要で、多くの人がつまずくのが他の品詞との識別です。
なぜなら、古文には「なり」という同じ音の言葉が、形容動詞以外にも断定の助動詞や伝聞・推定の助動詞など、複数存在するからです。
もし、この識別を間違えてしまうと、文全体の意味を正しく捉えることができなくなってしまいます。
例えば、「鬼なり」という一文があったとします。
- 形容動詞なら…「鬼のようだ」という比喩
- 断定の助動詞なら…「(正真正銘の)鬼である」という断定
このように、品詞の解釈一つで、文章のニュアンスは全く異なるものになってしまいます。正確な読解のためには、品詞の識別は避けては通れない道です。
ここからのセクションでは、この識別の方法を一つずつ丁寧に解説していきます。このポイントをマスターすれば、あなたの古文読解の精度は飛躍的に向上するはずです。
最難関!形容動詞と名詞との識別

形容動詞の識別において、最大の難関が「名詞+断定の助動詞『なり』」との見分け方です。
「静かなり」は形容動詞ですが、「学生なり」は名詞「学生」に断定の助動詞「なり」が付いた形です。これらを正確に識別するためのポイントは複数あります。
識別法①:接続する言葉の種類で判断する
最も文法的に正しく、確実な方法が接続(直前の言葉)で見分ける方法です。
- 形容動詞の「なり」: 活用しない語幹に接続します。
- 例:静かなり、あはれなり
- 断定の助動詞の「なり」: 名詞(体言)や、活用語の連体形に接続します。
- 例:学生なり、美しかるなり(形容詞「美し」の連体形+なり)
識別法②:特定の接尾辞で判断する
形容動詞の中には、特定の接尾辞を持つものがあります。これらは決まって形容動詞なので、形を見たら即座に判断できます。
- 「~げなり」: ありげなり、さびしげなり
- 「~かなり」: にぎやかなり、さわやかなり
- 「~らなり」: きよらなり
これらの形を見たら、形容動詞と判断して間違いありません。
「いと」を付けるだけ!簡単な見分け方のコツ

前述の通り、形容動詞と断定の助動詞「なり」の識別は複雑に感じられるかもしれません。
しかし、初心者でも簡単に試せる、非常に有効な見分け方のコツがあります。それは、問題の「なり」の直前に「とても」を意味する副詞「いと」を付けてみることです。
- 形容動詞の場合: 「いと静かなり。」→「とても静かだ。」 → 意味が自然に通じます。
- 名詞+断定の助動詞の場合: 「いと学生なり。」→「とても学生である。」 → 意味が不自然になります。

あ、これなら僕でもすぐに試せそうです!でも、どうして「いと」を付けると分かるんですか?

良い質問ですね。形容動詞は性質や状態の「程度」を表すことができるため、「とても」という言葉と相性が良いのです。一方、断定の助動詞は単に「~である」と指定するだけなので、「とても」とは結びつきにくい性質を持っています。テストで識別に迷ったら、まず「いと」を付けてみる方法を試してください。
活用の有無で判断!副詞との識別

形容動詞の連用形「~に」(例:静かに)は、副詞(例:つひに、やがて)と形が似ているため、混同しやすいポイントです。
この識別は、「活用するか、しないか」という本質的な違いで判断するのが最も確実です。
そもそも副詞とは、自立語で活用がなく、主に動詞などの用言を修飾する言葉です。
- 形容動詞の連用形: 「静かに」は、言い切りの形(終止形)が「静かなり」であり、「静かなる」「静かなれ」というように形を変えて活用します。
- 副詞: 「つひに」(意味:とうとう、結局)は、言い切りの形がなく、他の形に変化することはありません。つまり、活用しません。
文中で「~に」の形を見たら、「言い切りの形(終止形)は何だろう?」と考えてみる癖をつけると、正確に品詞を見分けられるようになります。
活用パターンでわかる動詞との識別

形容動詞と動詞の識別は、これまでの2つに比べると簡単です。
どちらも活用する言葉(用言)ですが、活用のパターンが全く異なるからです。
形容動詞の活用は、前述の通り「ナリ活用」と「タリ活用」の2種類しかありません。
一方、動詞の活用は「四段活用」「上一段活用」「カ行変格活用」など全部で9種類も存在します。それぞれの活用表を見比べれば、その違いは一目瞭然です。
ただし、注意点として「なり」という音を持つ動詞「成る」や「鳴る」との混同があります。
- 例:一つになりて(「成る」の連用形)
これは文脈で判断するしかありません。「~になる」という意味であれば動詞の「成る」である可能性が高いです。
1つの基準として「ず・と・に・く」+なりの形は動詞になりやすい傾向があります。
- 例:春となりて(この場合の「なり」は動詞になる)
主要な形容動詞一覧と古典での用例

最後に、入試やテストで頻出する主要な形容動詞を、より詳しく解説付きで紹介します。
一つの単語が複数の意味を持つ(多義語)ことが多いのが古文の特徴です。文脈に合わせて適切な意味を判断できるように、代表的な意味とその単語が持つ「コアなイメージ」、そして用例をセットで覚えましょう。
形容動詞 | コアなイメージと主な意味 | 古典での用例(出典) |
あはれなり | しみじみとした心の動き ①しみじみと趣深い ②いとしい、かわいい ③気の毒だ、かわいそうだ | いと小さく見ゆるは、いとあはれなり。(枕草子) |
おろかなり | 不十分・並一通り ①いい加減だ、不十分だ ②(「言ふも~」で)言うまでもない | 帝、おろかに思ぼしめさず。(源氏物語) |
すずろなり | あてもなく心が動く ①わけもない、あてもない ②思いがけない ③むやみやたらだ | すずろなる死にをすべからず。(源氏物語) |
まめなり | 真面目・実用的 ①まじめだ、誠実だ ②実用的だ、本格的だ | まめなる物はまさなかりなむ。(徒然草) |
あだなり | はかなく不誠実 ①はかない、もろい ②不誠実だ、浮気だ | すべて、あだなるもの、久しからず。(徒然草) |
つれづれなり | することがなく退屈 ①することがなく退屈だ ②ものさびしい | つれづれなるままに、日暮らし…(徒然草) |
この記事で学ぶ形容動詞の要点まとめ

- 形容動詞は物事の性質や状態を表す用言である
- 終止形が「なり」または「たり」で終わるのが特徴
- もとは「名詞+助詞+あり」という言葉の組み合わせであった
- 活用の種類は和語に付くナリ活用と漢語に付くタリ活用の二系統
- ナリ活用は『源氏物語』など和文の中心的な表現である
- タリ活用は『平家物語』など和漢混淆文で多用される
- 形容動詞の活用はラ変動詞「あり」の活用と酷似する
- 古文読解では他の品詞、特に「なり」の識別が極めて重要
- 最難関は「名詞+断定の助動詞なり」との識別である
- 識別に迷ったら「いと」を付けて意味が通じるか確認すると良い
- 副詞との識別は活用の有無で判断するのが確実である
- 動詞とは活用のパターンが全く異なるため識別は容易
- 形容動詞は古典作品の情景や心情を豊かに表現する役割を持つ
- 「あはれなり」「おろかなり」などは複数の意味を持つ多義語
- 用例とコアなイメージをセットで覚えることで読解力が向上する